うそじゃないもん【創作童話】

娘は、最近、ウソをつく。

 

「ママ、こども園で、今日、リレーしたんだよ。

 わたしは速く走れなかったけど、

 あっくんが最後に抜かして、わたしの組が勝ったの。」

「へえー、あっくん、速いんだねえ。」

次の日のお迎え。

ちょうど、あっくんママに会った。

「昨日は、あっくん、大活躍だったんですね。」

「? 昨日はお休みしてました。」

またウソだったのか。

 

「ママ、今日、こども園でお掃除頑張ったんだよ。

 わたしが全部のテーブルを拭いて、窓も拭いて、ドアも拭いたの。」

「すごいね、大変だったねえ。」

次の日の朝。

担任の先生がいたので挨拶ついでに聞いた。

「昨日は、大掃除をしたんですか?テーブルとかを拭いたって。」

「? 昨日は、お当番さんで、テーブルを拭いてくれたことかな。」

なるほど、半分は本当のことだったのかな。

 

「ママ、今日は、りっくんも、みーちゃんも、なっちゃんも、おやすみだったの。」

「え? さっき、りっくんいたよ。

 ママにバイバイしてくれてたよ。

 ねえ、ウソって、分かる?」

「分かるよ。

 オオカミがくるぞーって言って、オオカミが来ないんでしょ。」

「そうそう!

 ウソをついたら、ダメなんだよ。」

「ウソじゃないもん。

 ウソじゃないもん。

 うそじゃないもん!」

 

娘は、最近、ウソをつく。

どうして、ウソをつくんだろう。

ウソをついてるって、分かっていないのかな。

ウソにのってみる?

ウソを聞き流してみる?

どうしたら、いいんだろう・・・。

 

 

今日は、こども園の遠足。

動物園、楽しかった。

でも、パンダさん、いなかったなあ。

『パンダさんがいなかった』って言ったら、ママ、悲しむかな。

そうだ!

『パンダさんがいたよ』って教えてあげよう。

「ママ、今日、こども園で動物園に行ったの。

 パンダさんがいたよ。」

「へえー、ぞうさんは?」

「いなかった。」

「きりんさんは?」

「いなかった。

 パンダさんだけがいたの。」

「そうなんだ。」

ほらね、ママ、喜んでくれたでしょ。

 

 

今日は、天気もいい。

少しだけ、公園で遊ぼう。

この後、予定があるから、少しだけって言ったんだけど。

公園って、楽しいんだな。

何回も滑り台を滑って、何回もブランコ漕いで、まだまだ遊んでいる。

「もう、帰るよ。」

って、これは、何回目だ?

「あと1回滑ったら、帰ろう。」

「あと10回!」

「えー、あと10回は無理。

 あと3回。」

「あと10回、お・ね・が・い。」

「あと10回も滑ったら、お化けが来るよ。

 早く帰れって、お化けが来るよー。」

あれ?

私もウソついてるじゃん。

娘がつくウソは、ママを喜ばせる楽しいウソ。

私がつくウソは、娘を怖がらせる嫌なウソ。

どっちも、ウソ。

だけど、本当に大事なのは、ウソをつくかどうかではなく、

相手が悲しむかどうか、なのかもしれない。

もし、娘が誰かを傷つけたら、それが本当のことでも、ダメなんだ。

「ママー、3回滑って、終わりにしたよ。」

「すごーい。偉いじゃん!」

「お化け、来ない?」

「うん、来ない。

 ウソつきお化けは、どこかに行っちゃった。」

 

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