キヨシとゴン【創作童話】

 

目を覚ましたキヨシは、居間に歩いて行く。

ゴンの隣に座って、ゴンの顔をじっと見る。

ゴンはテレビを見ながら、うとうとしている。

 

キヨシとゴンが出会ってから、2週間が経った。

キヨシはゴンが大好きだった。

動作がゆっくりなのも、

テレビを見ながら寝てしまうところも、

散歩にいって走らないところも、

全部好きだった。

ゴンが、ビクンとして起きたので、散歩に行くことにした。

 

キヨシとゴンが家を出ると、隣のおばあさんが水撒きしていた。

「犬の散歩かい?」

ゴンが門の階段に座ったので、キヨシもそばに座った。

ゴンは一度座ると、なかなか動かない。

「この間、パトカーがうるさかった原因が分かったよ。

 この先の林に熊が出たらしいのよ。怖いわー。」

「ほう。」

「私、熊よけの鈴を慌てて買いにいったのよ。

 ワンちゃん、小さいから、熊に襲われないように気をつけてね。」

「ほう。」

ばあさんの話は長いが、ゴンは楽しそうに聞いている。

「では、そろそろ。」

「はい、気をつけて。」

 

キヨシは、ぐーッと伸びをした。

チューリップの甘い香りがする。

ゴンは、ゆっくり立ち上がり、歩きはじめた。

キヨシも後を追う。

散歩コースは、決まっている。

ばあさんの家を過ぎたら、左に曲って、公園の横を通って…。

公園で、ゴンの足が止まった。

ゴンは、満開の桜を見上げている。

風が吹いて、花びらが舞う。

「キャン、キャン。」

と甲高い声のイヌが、キヨシとゴンに吠えてくる。

飼い主が「すみません」と言いながら、リードを引いていく。

遠くで、まだイヌが「キャン、キャン」と吠えている。

「行こうか。」

ゴンがゆっくり歩き出す。

 

墓地に着いた。

隣のばあさんが言っていた林は、墓地のすぐ後ろだ。

この墓地で、キヨシとゴンは初めて会った。

それから毎日ここに来ている。

どこからか飛んできた桜の花びらが、いくつか落ちている。

お線香の匂いがする。

空に浮かぶ雲がゆっくり流れていく。

静かな時間が流れていく。

「帰ろうか。」

ゴンは、ゆっくり立ち上がった。

 

夕方の散歩の準備をしている時、チャイムが鳴った。

ドアを開けると、玄関に警察官が2人、作業服の人が2人立っていた。

「警察です。山田ゴンベエさんですか。

 大変申し訳ないのですが、

 ゴンベエさんが飼われているイヌを見せていただけないでしょうか。」

「はい。

 キヨシ、キヨシ。」

キヨシが部屋からかけてくる。

ゴンは、ゆっくりキヨシを抱き上げ、警察官に見せた。

作業服の人がキヨシを見て、「間違いないですね。」と言った。

「ゴンベエさん、申し上げにくいのですが、このこは、熊の子どもです。

 このまま、引き取らせていただきます。」

 

次の日、ゴンは墓地で手を合わせていた。

初めて、キヨシと会った時の事を思い出していた。

ばあさんの月命日の墓参りを終えて、帰ろうした時、

足元に黒くて丸っこい小さな生き物がいた。

周りに飼い主は見当たらない。

この子もひとりぼっちなんだ、と思った。

きっと、飼い主は探しているだろうと思い、毎日、墓地に来た。

まさか、熊の子供だったとは。

「ははは。」

ばあさんの月命日にしか外に出なかった私が、

キヨシのおかげで、毎日、墓参りをするようになった。

毎日、散歩をしている。

キヨシ、ありがとう。

林の木々が、風でサワサワ揺れた。

雲がゆっくり流れていく。

「それじゃあ、な、ばあさん。

 また明日、来るよ。」

ゴンは、ゆっくり歩き出した。

 

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