日曜日の午後、お父さんと洗車をした。
「よし、片付けるか。」
と、お父さん。
洗い立ての車は、すべすべしている。
「一番乗りだ!」
お父さんの目を盗んで、いつもは乗せてもらえない運転席に座った。
綺麗な車は気持ちいいなあ。
「キレイにしてくれて、ありがとうございます。」
どこからか声が聞こえた。
ボクは、キョロキョロと声の主を探す。
「ボクは、君の黄色い車です。
いつも洗車をしてくれるので、お礼をいたします。
どこか、行きたい所はありますか?」
すごいサービスがあるんだ。
だから、お父さんはいつも洗車した後、車に乗って楽しそうにしてたのか。
「じゃあ、動物園で。」
「了解しました。
シートベルトをしめてください。
ハンドルを握って、準備してください。」
ボクは、言われたまま、ハンドルを握って待つ。
ウィーンと音がして、窓の外が一瞬、暗くなった。
「つきました。」
窓の外には、キリンの親子やシマウマが歩いている。
「すごい!!」
反対側の窓からは、ゾウが水浴びしているのが見える。
この間、お姉ちゃんとケンカした時、ゾウのおもちゃを壊されたことを思い出した。
でも、お姉ちゃんは謝らなかった。
いつも、お姉ちゃんは謝らない。
お姉ちゃんは、いつも、ボクに意地悪する。
「ねえ、お姉ちゃんの部屋に行きたいんだけど、無理だよね?」
「了解しました。
ハンドルを握って、準備してください。」
ウィーンと音がして、窓の外が暗くなった。
「つきました。」
窓の外は、いつものお姉ちゃんの部屋で、お姉ちゃんは勉強している。
シートベルトを外して降りようとしたけど、出来ない。
「外には出られません。」
「なんでいつもボクの事をいじめるのか、聞きたかったのになあ。」
「それでは、ケンカした後のお姉さん部屋にいってみましょう。」
ウィーンと音がして、窓の外が暗くなった。
「つきました。」
お姉ちゃんは、部屋で泣いていた。
「ごめんね…。
ずっと弟が欲しかったのに、なんでケンカしちゃうんだろう。
仲良くしたいのに…
大好きなのに…。」
いつも謝らないお姉ちゃんが謝った。
いつも泣かないお姉ちゃんが泣いている。
「ボク、家に帰りたい。」
「了解しました。
ハンドルを握って、準備してください。」
ウィーンと音がして、窓の外は暗くなった。
いつもの駐車場から見えている景色に変わった。
外から、お父さんが覗き込んでいる。
ボクは、急いでシートベルトを外して、外に出た。
「お父さん、運転席に乗って、ごめんなさい。」
お父さんに頭を下げて、お姉ちゃんの部屋まで走った。
トントンとノックして、お姉ちゃんの部屋のドアを開けた。
「お姉ちゃん、大好き。」
お姉ちゃんは、「知ってるし」と言って、笑った。