「ごちそうさまでした。」
こっこちゃんはイスからおりて、ぬいぐるみで遊びはじめました。
「あーあ、また残してる。」
お母さんは、ため息をついて、こっこちゃんのおちゃわんを片付けました。
こっこちゃんは、少し前までは残さず食べていましたが、最近はイヤイヤ期に入り、ご飯を残すようになりました。
困ったお母さんは、こっこちゃんの三歳の誕生日に『魔法のおちゃわん』をプレゼントしました。
「これは、魔法のおちゃわんです。
これを使えば、こっこちゃんも全部食べられるよ。」
それから1ヶ月が経ちました。
こっこちゃんは、まだ一度もご飯をキレイに食べていません。
ある日の夕食後、テーブルのおちゃわんを見ながら、お母さんは言いました。
「魔法のおちゃわんに、ご飯が残っているよ。」
「やだ!」
こっこちゃんは、ほっぺをふくらませています。
「全部、食べようね。」
「やだ、やーだ!」
こっこちゃんは、イスからおりて、どこかに行ってしまいました。
次の日、いとこのお兄ちゃんが遊びに来ました。
こっこちゃんのより四つ年上です。
こっこちゃんとお兄ちゃんは、ブロックをしたり、ぬいぐるみや電車のオモチャで楽しく遊んでいます。
夕食の時間になりました。
お母さんは、魔法のおちゃわんに、こっこちゃんのご飯をよそいます。
こっこちゃんのとなりにお兄ちゃんが座って、二人とも元気よく「いただきます。」と言いました。
お兄ちゃんは、もくもくとご飯やおかずを食べ、あっという間におかわりをしています。
それを見たこっこちゃんも、がんばって、ご飯を食べています。
こっこちゃんのおちゃわんがキレイになり、「おかわり」と言おうとした時です。
軽やかなピアノの音楽が、こっこちゃんのおちゃわんから流れました。
おちゃわんからカラフルな音符が次々に飛び出して、消えていきます。
音符の次に、ミニドレスを着たネコが出てきて、おちゃわんのふちを踊りながら、一周しました。
こっこちゃんは、ふしぎそうにネコのダンスを見ています。
お兄ちゃんは、ネコのマネをして踊っています。
最後に小さな花火が三発上がり、ネコはおじぎして、おちゃわんの中に消えていきました。
おちゃわんをのぞきこんだお兄ちゃんが、
「『ごちそうさま、ニャン』って、書いてあるー。」
と、言って笑いました。
こっこちゃんは、おちゃわんをさかさにして、何回もふってみました。
でも、もう何も出てきません。
おちゃわんの中にかかれたネコがにっこり笑っていました。