トウモロコシ迷路【創作童話】

僕は、お父さんと「トウモロコシ迷路」の入口に並んでいる。

二メートルくらいあるトウモロコシの茎が壁になっている巨大迷路だ。

去年に続いて、2回目の挑戦だ。

あと10人目くらいで、スタートできる。

「ねえ、今年は一年生になったから、一人で行ってもいいんだよね?」

僕は、お父さんを見上げて聞いた。

「そうだね。お父さんと、どっちが早くゴールできるか、競争しよう。」

「絶対、勝つ。」

僕は、待ち切れなくって、ジャンプをして、列の前を見た。

やっと、僕たちの順番がきた。

お父さんがお金を払って、係の人からカードをもらう。

「このカードにスタンプを3つ集めて、ゴールをしてね。」

僕はカードを受け取り、走ってスタートした。

「気をつけるんだぞ。」

背中でお父さんの声を聞いた。

 

高いトウモロコシの壁、風が吹くと涼しい。

別れ道がいくつもある。

僕は、声がする方の道を選んで行く。

さっきから、「わあ!」とか「きゃあ!」とか悲鳴が聞こえるのが気になる。

まさか、お化けとかが出てきたりしないよね。

僕は怖くなって、後ろを振り返った。

誰もいない。

お父さんは、違う道に行ったのかな。

絶対、お父さんより、先にゴールするぞ。

僕はカードをしっかり握って、前を進む。

前から来た人のカードが、チラッと見えた。

一つ目のスタンプが押してある。

大丈夫、こっちで当たっている。

そう思った時、

「忍者、参上!」

目の前に赤い服の忍者が現れた。

「わああ!」

驚く僕を見て、忍者は嬉しそうに笑った。

「わしの仲間が『隠れ蓑の術』で、どこかに隠れているぞ。

 見つけられたら、褒美のスタンプをくれてやろう。」

赤い忍者の後ろに、トウモロコシの着ぐるみの人が動かないように立っている。

「見つけた。」

僕は、トウモロコシを指差した。

「おぬし、なかなかやるなあ。」

忍者は悔しそうに、僕のカードにトウモロコシのスタンプを押した。

バレバレだったけどね。

とりあえず、一つ目ゲットだ。

 

それから、右に行ったり、左に行ったり、行き止まりに入ったりして、二つ目のスタンプ場所についた。

係の人のお姉さんが立っている。

「今年の夏にしたいことは、何ですか。

 答えてくれたら、スタンプを押しますよ。」

僕の答えは、これしかない。

「トウモロコシ迷路で、お父さんに勝つ。」

「おおっ、いいねえ。頑張ってね。」

僕のガッツポーズとお姉さんがスタンプを押すタイミングが重なって、ナスのスタンプは横向きになってしまった。

ま、いいっか。

二つ目ゲット。

 

三つ目のスタンプの場所がなかなか見つからない。

ここは、さっきも通った気がするし。

やばい、このままじゃあ、お父さんに負けちゃう。

「あ、いたいた。やっと会えたな。」

トウモロコシ迷路に入ってから、初めてお父さんに会った。

お互いのスタンプが二つ押してあるのを確認して、

「三つ目の場所がなかなか見つからない。」

と、僕は正直に言った。

「お父さんも。結構、難しいなあ。

 ここは、お父さんと手を組んで、三つ目を探さないか。」

うーん、迷ったけど、三つ目のスタンプを押したら、また別々になるならいいか。

「いいよ。」

と言ったものの、お父さんはもう疲れたのか、歩くのが遅いなあ。

「ちょっと、水分補給。」

お父さんが止まって、水筒をゴクゴクと飲み始めた。

えー、早く行きたいのに。

しょうがないなあ。

僕も、水筒を飲むことにした。

ああ、冷たくて美味しい。生き返るなあ。

あれ?今まで見過ごしていた道を発見!
「お父さん、こっちに道があるよ。」

僕は早足になって、進む。

やったあ、三つ目のスタンプ場所だあ。

係の人がなぞなぞが書かれたボードを持っている。

『きつね、たぬき、ねこのなかで

 とうもろこしのスープをのんだのは、だれでしょう。

 こたえのスタンプをおしてください。』

台のうえに、きつね、たぬき、ねこのスタンプが置いてある。

「わかんない。」

僕がお父さんにこっそり言うと、

「ヒントは、とうもろこしのスープは、コーンスープだよ。」

と、お父さんも小さな声で教えてくれた。

なるほど、簡単、簡単。

僕とお父さんは、きつねのスタンプを押した。

「じゃあ、ここからまた競走ね。」

僕はお父さんに手を振った。

 

あとはゴールだけだと思うと、なんだか足が軽かった。

右に左に進んで行く。

たまーに係の人が立っていて、手を振ってくれる。

あと少しでゴールかな、なんて思っていたら、目の前に泣いている子がいた。

周りには、誰もいない。

まさか、迷子?

急に心臓がドキドキしてきた。

去年、僕もトウモロコシ迷路でお父さんとはぐれたんだ。

高いトウモロコシに囲まれているのが、やけに怖くて、一歩も動けなくなったんだ。

どうしよう。

少し戻ったら、係の人がいるかもしれない。

「大丈夫だよ。向こうに係の人がいるから、一緒に行こう。」

泣いている子は下を向いたまま、ゆっくり歩き出した。

大丈夫、大丈夫。

僕は自分に言い聞かせる。

「どうしたんだ。」

横の道から現れたのは、お父さんだった。

「この子、迷子みたいだから、係りの人の所まで連れていく。」

なんだか、お父さんの顔をちゃんと見られなかった。

泣いている子と一緒にゆっくり歩く。

長い長い道。

こっちでいいのかな。

やっと係の人を見つけた時は、僕まで泣きそうになった。

「この子、迷子です。」

それだけ言って、僕は走った。

 

しばらく走って、曲がり角で足が止まった。

ああ、もうお父さんはゴールしたかなって思った。

ゆっくり行こう。

下を向いたまま歩いていたら、人にぶつかった。

顔をあげると、ぶつかった人はお父さんだった。

「偉かったなあ。さすが、一年生。」

お父さんの笑った顔を見たら、涙が溢れた。

お父さんは僕を抱きしめて、頭をゴシゴシ撫でた。

「お父さん、一緒にゴールまで行こう。」

 

ゴールの看板の所には、人が集まっていた。

「スタンプの確認をしています。」

係の人が大きな声で言っている。

あれ、カードがない。

どこかで落としちゃった。

「カードがない。」

お父さんもびっくりして、僕のポケットを探す。

「どうしよう、どうしよう。」

「係の人に落ちてなかったか、聞いてみるか?もう一回戻るか?」

うーん、どうしよう。頭の中がパニックで考えられない。

「すみません、すみません。

 こちらのカード、落とされませんでしたか。」

後ろから走ってきた女の人が、僕にカードを差し出す。

ナスのスタンプが横向きになったカード。

「僕のカード。」

僕は飛び上がって喜んだ。

「ありがとうございます。」

お父さんが頭を下げている。

「いえいえ、こちらこそ。

 先程、うちの子が迷子になったところを助けていただいて、本当にありがとうございました。」

女の人が指差した先に、パパと一緒に手を振るさっきの子が居た。

良かった。

無事に会えたんだ。

僕のカードも、無事見つかって、本当に良かった。

ナスのスタンプが横向きになったカード。

あ、僕は大事な事を思い出した。

「次の方、カードを確認します。」

僕は、お父さんより先にカードを渡した。

「やったあ。お父さんに勝った。

 お父さんより早くゴールするって、ナスのスタンプの人と約束したんだ。」

今年の夏にしたいこと、大成功!!

 

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