学校改革③【創作童話】

頭をさすりながら、外に出ると、そこは、昨日の小学校だった。

 

「マコト、おはよー。」

昨日と同じような1日が始まった。

一つ違ったのは、ボクが日直だったことだ。

日直というのが、順番で回ってくるらしく、

今日は、ボクだった。

日直の仕事は、授業の始まりと終わりに挨拶をしたり、

先生のお手伝いもするらしい。

大事な手紙がある日は、それをアキラくんの家に届けるのも、日直の仕事だった。

アキラくんは、3年生の冬から学校に来ていないそうだ。

なんで、一回だけ転校できる制度を使わないんだろう。

あ、そうか。

おじいちゃんの頃は、まだ「学校改革」前だ。

小学校を自由に選べないんだった。

 

アキラくんの家は、学校のすぐ近く。

みんなが下校の時に通る道にある。

インターフォンを鳴らす。

「こんにちは。アキラくんに手紙を持ってきました。」

出てきたのは、アキラくんだった。

初めて見るけど、多分、そう。

「これ、学校から。」

「あがれば。」

アキラくんの部屋に入るのも、初めてだ。

アキラくんの机にパソコンがあった。

「え、この時代にもパソコンがあるんだ。」

「は?」

「ごめん、ごめん。

 このパソコンで、勉強してるの?」

「まあ。何でも調べられるよ。」

それから、パソコンのこと、勉強のこと、学校のこと、いろいろ話が盛り上がった。

アキラくんのお母さんが帰ってきたので、ボクは帰ることにした。

なんだか、アキラくんとは、話が合うなあ。

 

それからというもの、ボクは小学校の帰りに、バスを途中で降りて、

古そうな公園のドカンをくぐって、おじいちゃんの小学校に行った。

おじいちゃんの小学校で、朝から授業を受けた。

その後、アキラくんの家で、アキラくんのお母さんが帰るまで過ごした。

不思議なことに、こんなに長い時間をおじいちゃんの時代で過ごしても、

ドカンをくぐる前と後では、30分も経っていなかった。

 

おじいちゃんの小学校に来てから、2週間がたった。

アキラくんともだいぶ仲良くなった。

アキラくんは、学校がつまらないと言う。

もっと色々なことを、自分のペースで学びたいって。

うん、分かる。

おじいちゃんの学校は、楽だけど、楽しくない。

だけど、アキラくんは、学校のこと、友達のことをボクにすごく聞いてくる。

学校が嫌いではないみたいだ。

「ねえ、ボク、学校に行った方がいいと思う?」

アキラくんが、何でもないような明るい声で言った。

ボクは、少し迷ったけど、本当のことを話した。

マコトは、ボクのおじいちゃんであること。

ドカンを通って、この小学校に来ていること。

学校改革があったこと。

ボクの本当の小学校のこと。

アキラくんは、真剣にボクの話を聞いてくれた。

「ボクの小学校にアキラくんがいたら、間違いなく”エクセレント”をもらえるよ。」

アキラくんのお母さんが帰ってきたので、ボクは帰ることにした。

「また、明日ね。」

 

次の日、いつも通り、ドカンに頭をぶつけた。

でも、おじいちゃんの小学校には行けなかった。

何度やっても、ドカンをくぐった先は、古そうな公園のままだった。

頭が痛い。

頭をぶつけ過ぎた。

ドカンの出口に座って、古そうな公園を見ていた。

鉄棒が、さびている。

滑り台の階段のペンキが、はげている。

ブランコが風で少し揺れて、ギーと鳴った。

もう、アキラくんに会えないんだ。

どれくらい時間が経ったんだろう。

公園の街灯がついた。

帰らなくちゃ。

ボクは、やっとドカンから立ち上がり、公園の出口に向かう。

「マコトくん。」

聞き覚えのある声がして、振り向いた。

街灯の下にスーツ姿のおじいさんが立っている。

おじいさんは、ボクの近くに来て、

「アキラです。」

と、笑った。

え?

ボクの知っているアキラくんとは全然違う。

背も高くて、シワがあって、白髪があって、とっても元気で。。。

でも、声がアキラくんだった。

 

次の日曜日、ドカンの公園でおじいさんのアキラくんと待ち合わせをした。

アキラくんは、ボクがいかなくなってからのことを話してくれた。

アキラくんは、少しずつ学校に行くようになった。

でも、学校で会うマコトくんと家に来ていたマコトくんは全然違った。

アキラくんが未来のことをマコトくんに聞いても、マコトくんは全然知らなかった。

アキラくんは、忘れないようにパソコンに「ボクの話」を書いておいた。

毎日、学校にいくようになった。

たくさん勉強をした。

たくさん仲間を作った。

時々、パソコンに残っている「ボクの話」を読み返した。

そして、アキラくんは、大人になった。

大人になったアキラくんは、「学校改革」を実行した。

えぇぇぇぇー!!!

ボクは、ひっくり返った。

見上げた空は、青かった。

アキラくんは、ずっとドカンのある公園を探していた。

マコトくんの孫をずっと探していた。

ずっと、ボクに会いたかった、と。

「学校は、楽しいかい?」

「うん!」

「それは、良かった。」