頭をさすりながら、外に出ると、そこは、昨日の小学校だった。
「マコト、おはよー。」
昨日と同じような1日が始まった。
一つ違ったのは、ボクが日直だったことだ。
日直というのが、順番で回ってくるらしく、
今日は、ボクだった。
日直の仕事は、授業の始まりと終わりに挨拶をしたり、
先生のお手伝いもするらしい。
大事な手紙がある日は、それをアキラくんの家に届けるのも、日直の仕事だった。
アキラくんは、3年生の冬から学校に来ていないそうだ。
なんで、一回だけ転校できる制度を使わないんだろう。
あ、そうか。
おじいちゃんの頃は、まだ「学校改革」前だ。
小学校を自由に選べないんだった。
アキラくんの家は、学校のすぐ近く。
みんなが下校の時に通る道にある。
インターフォンを鳴らす。
「こんにちは。アキラくんに手紙を持ってきました。」
出てきたのは、アキラくんだった。
初めて見るけど、多分、そう。
「これ、学校から。」
「あがれば。」
アキラくんの部屋に入るのも、初めてだ。
アキラくんの机にパソコンがあった。
「え、この時代にもパソコンがあるんだ。」
「は?」
「ごめん、ごめん。
このパソコンで、勉強してるの?」
「まあ。何でも調べられるよ。」
それから、パソコンのこと、勉強のこと、学校のこと、いろいろ話が盛り上がった。
アキラくんのお母さんが帰ってきたので、ボクは帰ることにした。
なんだか、アキラくんとは、話が合うなあ。
それからというもの、ボクは小学校の帰りに、バスを途中で降りて、
古そうな公園のドカンをくぐって、おじいちゃんの小学校に行った。
おじいちゃんの小学校で、朝から授業を受けた。
その後、アキラくんの家で、アキラくんのお母さんが帰るまで過ごした。
不思議なことに、こんなに長い時間をおじいちゃんの時代で過ごしても、
ドカンをくぐる前と後では、30分も経っていなかった。
おじいちゃんの小学校に来てから、2週間がたった。
アキラくんともだいぶ仲良くなった。
アキラくんは、学校がつまらないと言う。
もっと色々なことを、自分のペースで学びたいって。
うん、分かる。
おじいちゃんの学校は、楽だけど、楽しくない。
だけど、アキラくんは、学校のこと、友達のことをボクにすごく聞いてくる。
学校が嫌いではないみたいだ。
「ねえ、ボク、学校に行った方がいいと思う?」
アキラくんが、何でもないような明るい声で言った。
ボクは、少し迷ったけど、本当のことを話した。
マコトは、ボクのおじいちゃんであること。
ドカンを通って、この小学校に来ていること。
学校改革があったこと。
ボクの本当の小学校のこと。
アキラくんは、真剣にボクの話を聞いてくれた。
「ボクの小学校にアキラくんがいたら、間違いなく”エクセレント”をもらえるよ。」
アキラくんのお母さんが帰ってきたので、ボクは帰ることにした。
「また、明日ね。」
次の日、いつも通り、ドカンに頭をぶつけた。
でも、おじいちゃんの小学校には行けなかった。
何度やっても、ドカンをくぐった先は、古そうな公園のままだった。
頭が痛い。
頭をぶつけ過ぎた。
ドカンの出口に座って、古そうな公園を見ていた。
鉄棒が、さびている。
滑り台の階段のペンキが、はげている。
ブランコが風で少し揺れて、ギーと鳴った。
もう、アキラくんに会えないんだ。
どれくらい時間が経ったんだろう。
公園の街灯がついた。
帰らなくちゃ。
ボクは、やっとドカンから立ち上がり、公園の出口に向かう。
「マコトくん。」
聞き覚えのある声がして、振り向いた。
街灯の下にスーツ姿のおじいさんが立っている。
おじいさんは、ボクの近くに来て、
「アキラです。」
と、笑った。
え?
ボクの知っているアキラくんとは全然違う。
背も高くて、シワがあって、白髪があって、とっても元気で。。。
でも、声がアキラくんだった。
次の日曜日、ドカンの公園でおじいさんのアキラくんと待ち合わせをした。
アキラくんは、ボクがいかなくなってからのことを話してくれた。
アキラくんは、少しずつ学校に行くようになった。
でも、学校で会うマコトくんと家に来ていたマコトくんは全然違った。
アキラくんが未来のことをマコトくんに聞いても、マコトくんは全然知らなかった。
アキラくんは、忘れないようにパソコンに「ボクの話」を書いておいた。
毎日、学校にいくようになった。
たくさん勉強をした。
たくさん仲間を作った。
時々、パソコンに残っている「ボクの話」を読み返した。
そして、アキラくんは、大人になった。
大人になったアキラくんは、「学校改革」を実行した。
えぇぇぇぇー!!!
ボクは、ひっくり返った。
見上げた空は、青かった。
アキラくんは、ずっとドカンのある公園を探していた。
マコトくんの孫をずっと探していた。
ずっと、ボクに会いたかった、と。
「学校は、楽しいかい?」
「うん!」
「それは、良かった。」