壁に意味の分からない文字が書かれている。
しかも、油性マジックで!
犯人は、娘しかいない。
この間は、畳に書いていた。
その前は、ふすまにも書いていた。
家中が、娘のらくがきだらけになっていく。
娘を呼んで、壁のらくがきを見せる。
「ここに、書いちゃダメだよね?」
「はーい。
じゃあ、どこに書いたらいいの?」
「紙に書いてください。」
「はーい。」
返事は、良い。
でも、これで3回目だ。
反省しているのか、いないのか。
数日後、娘は、こども園から元気に帰ってくると、
「ワンピースが欲しい」
と言った。
お友達みたいな可愛いワンピースが欲しいそうだ。
娘は、外で遊ぶのが大好きなので、いつも短パンを着せていた。
ワンピースかあ。
ちょっと動きずらいだろうなあ。
でも、本人が欲しがっているし・・・。
まあ、見にいくだけ、行ってみよう。
日曜日。
天気もよく、買い物日和だ。
娘とショッピングモールに出かけた。
最初のお店で、まさかの真っ白いワンピースを選んだ。
「これが、いい。」
「え、白だよ。
汚れが目立つよ?
もうちょっと、他も見てみようよ。」
「これがいい!
これがいい!」
どうしよう。
買うか?
買わないか?
こんなに欲しがっているし・・・。
結局、娘は、そのワンピースを離さなかったので、買うしかなかった。
家に帰ってくると、すぐに、真っ白いワンピースに着替えた。
クルクル回って見せてくれる。
「かわいい?」
「かわいい。」
「明日、こども園に来ていく。」
「えー。」
「みんなに見せたいの。
おねがい!」
「はあ。」
月曜日。
朝、嬉しそうに真っ白いワンピースを着て、登園していった。
しかし、帰りには、なぜか、違う服を着て帰ってきた。
「あれ?
ワンピースは?」
娘は、カバンの中から、ビニール袋を出した。
「この中。」
それだけ言って、娘は自分の部屋にかけていく。
ビニール袋の中に、汚れたワンピースが入っていた。
お便り帳に、『給食のミートソースがついてしまった』
と書かれていた。
はあ。
思わず、ため息が出る。
お便り帳には続きがあった。
『元気がないので、お家でも様子をみてください』
娘は、相当ショックだったみたいだ。
はあ。
また、ため息が出た。
とりあえず、洗濯しよう。
洗濯しても、オレンジ色が落ちなかった。
まさか、たった一日で汚してくるとは・・。
娘は、その後、ワンピースを着たいと言わなくなった。
新しいワンピース買っても、きっと汚れたら着なくなるだろうし。
どうしようかな。
洗濯物を畳みながら、壁のらくがきが目に入った。
しょうがないなあ。
私は、娘を呼んだ。
娘の前に、少しオレンジ色に汚れた白いワンピースを広げた。
「これ、もう着ないの?」
「だって・・・。」
「じゃあ、このワンピースに、このペンで絵を書いていいよ。
世界で一つのワンピースを作ろう。」
「このワンピースに書いていいの?
紙じゃないのに?」
「うん。
このワンピースだけ、いいよ。
このペンは、書いたら消えないから、気をつけてね。」
「やったあ。」
娘は、嬉しそうに、絵や字を書いたり、色を塗ったりした。
真っ白だったワンピースが派手なワンピースになった。
娘は、カラフルになったワンピースを着て、クルッと回った。
「かわいい?」
「かわいい。」
らくがき女王の誕生だ。