父親です 【創作童話】

「では、今日の社会は、昨日の続きで、

 日本の歴史について調べたことを

 グループごとに発表してもらいます。

 えっと、C班からですね。

 よろしくお願いします。」

C班の四人が前に出た。

スクリーンに男の人が赤ちゃんのオムツを替えている写真が映った。

「みなさんは、『イクメン』という言葉を知っていますか。

 育児をする男の人という意味です。

 昔は、父親のことを、こう呼んでいたそうです。」

クラスが少しザワつく。

スクリーンの写真が赤ちゃんを抱っこする女の人に変わった。

「でも、育児をする女の人のことは、

 『イクウーマン』や『イクレディー』とは言わず、

 母親と呼んでいました。」

スクリーンに『父親です』と大きな文字が映った。

「あるイクメンが、こう言いました。

 『ぼくは、イクメンではなく、父親です。

 イクメンとは、育児をする男の人という意味です。

 それは、保育士さんでも、近所のおじちゃんでも、

 おじいちゃんでも、誰でもイクメンなんです。

 でも、ぼくは、この子の父親です。

 父親が、子供のオムツを替えること、

 ミルクをあげること、抱っこすること、

 それは、すべて普通のことです。

 なのに、どうして、父親ではなく、

 イクメンと呼ばれてしまうのでしょう。』」

スクリーンに赤ちゃんを抱っこした沢山の男性の写真が映る。

「一人の父親の呼びかけで、父親たちによる父親たちの

 『父親です』運動が始まりました。」

スクリーンに『5,ジェンダー平等を実現しよう』の図が映った。

「その当時、SDGs17の目標というのがありました。

 こちらは、みなさん、知っていますよね。

 その中の5番目に『ジェンダー平等を実現しよう』というのがあります。

 それが追い風になり、『父親です』運動は全国に広まりました。」

 

教室のドアを誰かがノックした。

発表が、一度、中断される。

教室に副校長先生が入ってきた。

「先生、お子さんが発熱だそうです。

 あとは、引き継ぎますので、

 お迎えに行ってください。」

先生は、生徒の方を見て、言った。

「そういうことですので、

 先生の仕事は、ここまでで帰ります。

 ここから、父親の仕事に行ってきます。

 みんなも、体調に気をつけてください。」

先生は、教室を出ていった。

 

スクリーンにもう一度『父親です』の大きな文字が映った。

「こうして、イクメンという言葉はなくなりました。

 『父親です』運動で、イクメンという言葉がなくなっただけでなく、

 育児をサポートする人、イクサポさんが増えていきました。

 そして、母親、父親、イクサポさん、

 たくさんの人に支えられて、育児をする社会になりました。

 これで、C班の発表を終わりにします。」

拍手の中、C班の四人が席に戻る。

「社会に違和感を感じて、

 声を上げる人がいる。

 それに賛同する人がいて、

 社会がより良い方へ変わっていく。

 とても素晴らしい発表でした。」

と、副校長先生が言った。

 

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