娘が保育園に行きたがらない。
朝、保育園に向かう車内では、一言も話さない。
駐車場から保育園の靴箱まで、娘はトボトボ歩く。
私は、足取りの重い娘の手を引いて歩く。
靴箱に着いても、なかなか靴を脱がない。
靴を脱いだ後も、なかなか部屋に入っていかない。
そんな毎日が続いた。
今日は、朝から雨だ。
娘を後部座席に乗せ、保育園に向かう。
しばらくすると、
いつもは、静かに乗っている娘が、コソコソ一人で話している。
赤信号で止まると、静かになり、
走り出すと、楽しそうに小さな声で話している。
保育園に着いた。
お気に入りの傘をさして歩く娘。
傘で顔が見えないが、いつもより足取りが軽い気がした。
夕方、迎えに行くと、楽しそうに帰ってきた。
その日の保育園からのお便り帳に
「ネコちゃんのお話をたくさんしてくれました。」
と書いてあった。
猫なんて飼っていないけど?
ぬいぐるみの中に猫がいたのかな?
部屋のぬいぐるみを確認する。
猫はいない。
保育園の折り紙で、猫を作ったのかな?
保育園のカバンの中を確認する。
猫はいない。
家の中で、猫を探したけど、どこにもいなかった。
次の日も、朝から雨だった。
保育園までの車内、しばらくすると、
娘は楽しそうにコソコソ話し始めた。
昨日と同じだ。
邪魔をしないように、こっそりバックミラーで娘を見る。
かすかに「がんばるね」と言ってるのが聞こえた。
保育園に着いて、後部座席のドアを開けた。
「ママ、おねがいがあるの。
帰りまで、ネコちゃんを消さないで。」
「ネコちゃん?」
娘は、車の窓ガラスを指さした。
曇った窓ガラスに、娘が書いた猫がいた。
ここに猫がいたんだ。
「わかったよ。
帰りも、ネコちゃんと一緒に迎えにくるね。」
娘は、傘をさして、元気に保育園まで歩いた。
娘を見送り、車に乗り込み、もう一度、ネコちゃんを見た。
「ありがとう。」
私は、ネコちゃんにお礼を言ってから、車を出した。