息子と石ころ 【創作童話】

息子が小学生になった。

毎日、学校までの往復を歩いていく。

毎朝、家の門で「いってらっしゃい」をして、

息子の後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。

ふと気がつくと、門の所に石ころがあった。

最初に気がついた時は、3つくらいだった。

それが次第に増えていき、小さな山になっていた。

 

学校から帰ってきた息子に聞いてみる。

「門の所に、石の山があるんだけど、

 あれって、なに?」

「あれは、ゴールした石。」

「何ゴール?」

「学校の帰りに見つけた石を蹴ってきて、

 家にゴールした石。」

なるほど。

学校の帰り道は、その辺の石を蹴りながら帰って来てるんだ。

「あの石ころは、どうするの?」

「わからない。」

「えー、これ以上増えたら、お母さん、嫌だな。」

 

次の日、下校時刻になっても、息子が帰って来なかった。

心配になって、外に出たら、

門の所でランドセルを背負ったまま、しゃがんでいた。

「どうしたの?」

見ると、門にあった石でアリの道を作っていた。

アリの行列の両側に石が並んでいる。

「アリの道路。」

なるほど。

こういう遊び方もあるのね。

「とりあえず、学校から帰ったら、一回家に入って、

 ランドセルを下ろしてから、遊ぼうね。」

 

それから、学校から帰ってくると、

ランドセルを置いて、石で遊ぶようになった。

遊び始めて、しばらくすると、

「お母さん、見て!」

と、息子は嬉しそうに呼びにくる。

「こっちが、はやて。

 こっちが、かがやき。」

石で電車の形を作ったみたいだ。

見ても、よく分からなかった。

「すごいね。」

「でしょ。ここの石の形がそっくりでしょ?」

なるほど。

そこにこだわりがあったのね。

 

毎日のように、石で電車を作っている息子。

毎日、下ばかり向いて、石を探している。

 

梅雨になり、雨の日が続いて、

石ころで遊ぶ日も減っていた。

 

夏休みに、個人懇談があるという。

そういえば、学校の話を聞いても、

息子は全然話してくれない。

大丈夫なんだろうか?

 

個人懇談の日。

息子に「一緒に行く?」と聞いたが、

「留守番がいい」と言われた。

せっかくの夏休みまで、先生には会いたくないようだ。

 

先生は、学校での息子の様子を教えてくれた。

「話を聞く時は、きちんと目を見て聞いています。

 授業中、手を上げることはありませんが、

 テストや宿題を見ると、理解出来ているようです。

 係の仕事も、率先して頑張っています。」

息子は目立つ方ではないと思う。

それでも、先生が息子の良いところを見つけてくれたこと、

息子が学校で頑張っていることがわかり、

ひとまず、ホッとした。

「家での様子は、どうですか?」

先生が質問する。

「そうですねえ。

 学校からの帰り道、石を蹴りながら帰ってきていまして、

 その石が結構集まりまして、

 晴れている日は、その石で形を作って遊んでいます。」

外からセミの声が聞こえた。

今日も、晴れている。

「きっと、いつも下を向いて歩いているんだと思います。」

私は付け加えた。

先生が、思い出したように言う。

「そういえば、壁に貼ってある掲示物の画びょうが取れていた時、

 そっと直してくれていました。

 掲示物の画びょうも、道端に落ちている石も、

 他の人なら気づかずに通り過ぎてしまう物です。

 それに気がつくって、素晴らしいことだと思います。」

なるほど。

誰も気が付かないことに気がつく才能があったのね。

 

昇降口から外に出ると、セミの鳴き声が一層うるさく感じた。

空には、入道雲が大きく浮かんでいる。

駐車場の隅の石ころに、ふと目がいく。

いつもなら、気が付かない。

こんな小さな石ころを、息子は見つけていたんだ。

それが、息子の良い所なんだろうか。

 

家に帰ってきたら、息子が石で遊んだ後が残っていた。

なんの形だろう?

真ん中に円があり、そこから放射線状に石が並べてある。

どこからか飛んできたアゲハチョウが円の石に止まった。

あ!

石で作った花にアゲハチョウが止まっているようにみえる。

「おかえり。」

玄関から出てきた息子に手招きした。

「石の花にアゲハチョウが止まっているよ。」

アゲハチョウが逃げないように小さな声で息子に教えた。

「それ、花じゃなくて、扇形車庫の転車台だよ。」

なるほど。

これが息子の良いところなのかもしれない。

 

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