「大丈夫」の天使【創作童話】

どうしよう。

どうしよう。

おなかが痛くなってきた。

まだ、授業中。

どうしよう。

どうしよう。

 

「大丈夫だよ。」

目の前に天使が飛んでいる。

「大丈夫。こっそり手を上げてごらん。

 先生がこっちにきたら、

 おなかが痛いって、言えばいいんだよ。」

私は、小さく手を上げた。

先生が近づいてくる。

私は、小さい声で言った。

「おなかがいたい。」

先生がそっと私を立たせて、廊下に連れていく。

「保健室まで一人で行けそう?」

「うん。」

私は、うなずいた。

ゆっくり、ゆっくり歩いて、保健室に着いた。

保健室で寝ていたら、ママが迎えにきた。

さっきの天使は、何だったのだろう?

 

どうしよう。

どうしよう。

忘れ物をしちゃった。

今日、絶対、持ってきてください。

って先生が言ってた。

どうしよう。

どうしよう。

 

「大丈夫だよ。」

また、目の前に天使が飛んでいる。

「大丈夫。

 先生に正直に忘れましたって、言えばいいんだよ。」

私は、先生に「忘れました。」と小さな声で言った。

「明日、持ってきてください。」

「はい。」

あれ?怒られなかった。

 

それからも、私が「どうしよう。どうしよう。」となると、

天使が飛んできて「大丈夫だよ。」と言った。

そして、天使の言うとおりにしたら、

「どうしよう」が「大丈夫」になった。

 

どうしよう。

どうしよう。

ママのマグカップ、欠けちゃった。

どうしよう。

どうしよう。

落としたら、欠けちゃった。

でも、ちょっとだけだし・・・

きっとママは気が付かない。

だから、このままで大丈夫。

ママに言わなくても、大丈夫。

いつもみたいに、天使が飛んできて、

「大丈夫だよ。」って言ってくれる。

私は、そっとマグカップを棚に締まった。

大丈夫。

大丈夫・・・。

どうして、今日は天使が飛んでこないの?

大丈夫だよ・・・ね?

 

どうしよう。

どうしよう。

眠れない。

ママのマグカップが気になって、眠れない。

どうしよう。

どうしよう。

 

「大丈夫だよ。」

目の前に天使が飛んでいる。

「ママに、ごめんね。

 正直に言えば、大丈夫だよ。」

私は、天使に聞いた。

「どうして、すぐに来てくれなかったの?

 私、ママのマグカップを落としちゃって、

 どうしよう、どうしようって、なったのに。」

「ママのところに行ってたんだよ。

 ママに、君が正直に話すから大丈夫だよ

 って伝えてたんだ。」

天使は、ふわふわ飛んでいる。

「ママ、私が正直に言わなくて、

 どうしよう、どうしようって、なってるかな?」

天使は、ふわふわ飛んでいる。

私は、ガバッと起き上がって、ママのところに走った。

「ママ、ごめんね。

 ママのマグカップ、落として、欠けちゃったの。」

ママが欠けたマグカップを持ってきた。

「正直に話してくれて、ありがとう。」

 

あれから、もう天使は飛んでこなくなった。

でも、「どうしよう」が「大丈夫」になる方法を

私は知っている。

 

金継ぎで直したママのマグカップ。

金色の部分が天使の羽根みたい。

 

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