女の子は、公園で飛ぶ練習をしていました。
「ジャングルジムは、高いからジャンプしちゃダメよ。」
「滑り台は、滑るだけ。飛んじゃダメよ。」
ママは、「ダメよ」「ダメよ」という。
女の子は、1番低い鉄棒から飛ぶ練習をしている。
この間、スカートで飛ぶ練習をしたら、
スカートが鉄棒に引っかかって、ビリビリになった。
「スカートの時は、高いところから飛ばないで。」
とママが言った。
女の子は、鉄棒に上って、飛ぶ練習をする。
「もっと高く飛ぶんだ。」
ずっと飛ぶ練習をしていたら、
ママが、「本当は飛べないんだよ。」と言った。
女の子は、それでも飛ぶ練習をする。
「飛べないなんて、ウソだ。」
何回も、何回も、鉄棒から飛ぶ。
「少し飛べるようになったわ。」
女の子は鉄棒に座って休んだ。
女の子の髪が風で揺れる。
気持ちの良い風が、爽やかな香りを運んでくる。
「たくさん飛ぶ練習をしているのね。」
公園の藤の花が優しくささやいた。
女の子は、鉄棒から飛び降りた。
そして、藤の花を見上げた。
「私も、飛んでみたいなあ。」
藤の花は、ささやいた。
「練習したら飛べるよ。」
女の子は答えた。
女の子は藤の花がサラサラ揺れるのを見ていた。
「重力には逆らえないの。
私は、本当は上に向かって咲きたいの。
でも、見て。
私の花は、全部下に垂れていく。」
藤の花は、寂しそうにささやいた。
女の子は、「重力ってなあに?」と聞いた。
「重力のせいで、下に落ちて行くの。
私の花も、あなたも。
だから、飛べないのよ。」
女の子は少し考えてから言った。
「でも、鳥さんは飛べるよ。」
「そうね。鳥には翼があるからね。
そうだ。私の花を翼にしたら?
きっと飛べるわ。」
藤の花は、嬉しそうにささやいた。
女の子は、夕暮れの空を見上げた。
藤の花を翼にして、飛ぶところを想像してみた。
「藤の花の翼は、いらない。」
女の子は、きっぱり断った。
「だって、バサバサしたら、お花が可哀想でしょ。」
女の子は、薄紫色の空を見ながら言った。
「藤の花は、今の空と同じ色。
きれいな紫色。
お姫様のドレスみたい。」
女の子は、藤の花にバイバイをして、
また鉄棒に上って飛ぶ練習をした。
藤の花は、素敵なドレスになった姿を思い浮かべていた。
「重力のおかげで、きれいなドレスになれそうね。」
藤の花が優しくささやいた。