
昔々、鬼怒川の近くでは人間と鬼が仲良く暮らしていました。
その中に鬼怒太という鬼の男の子がいました。
ある日、鬼怒太が鬼怒川で遊んでいると、人間の女の子がやってきました。
時々、一緒に遊ぶ女の子です。
女の子は、親に叱られて、泣いていました。
鬼怒太は逆立ちしたり、変な顔をしたりして、
女の子を元気づけようとしました。
女の子は鬼怒太を見て、少しだけ笑いました。
鬼怒太は女の子にもっと元気になってほしくて、
持っていた金棒を貸してあげました。
「これ、貸してあげる。
この金棒は、お守りだよ。
きっと、守ってくれる。
持ってるだけで大丈夫。
絶対に振り回したり、叩いたりしちゃダメだよ。」

その日の夜のことです。
鬼怒川に土砂降りの雨が降りました。
雨はどんどん強くなり、鬼怒川の水が溢れ出しそうでした。
人間たちは大急ぎで避難しはじめました。
そんな中、避難しないおじいちゃんがいました。
おじいちゃんは、怒鳴って言いました。
「鬼なんかと仲良くしているから、鬼怒川が荒れたりするんじゃ。
ワシは、絶対避難などしない。」
雨は更に強くなっていきます。
「鬼たちのせいじゃない。
ここは危ないから、早く避難しましょう。」
村人みんなでおじいちゃんを説得していました。
その様子を見ていた鬼が言いました。
「オラたち全員で、氾濫を止めに行ってきます。
だから、避難してください。」
また別の鬼が言いました。
「上流で、氾濫を食い止めよう。」
「そうだ、鬼怒川を守ろう。」
鬼たちは次々と大雨の中へ出ていきました。
鬼たちは大雨の中、上流に向かって歩いていきました。
雨が強すぎて、前が見えません。
鬼の最後尾にいた鬼怒太は、いつの間にか群れから離れてしまいました。
気がつくと、周りには誰もいません。
大声で叫んでも、雨の音に消されて、鬼怒太の声は届きませんでした。
鬼怒太は洞穴をみつけ、雨がやむのをじっと待っていました。
何日か経ち、雨がやみ、やっと鬼怒川が穏やかな川に戻りました。
人間たちは鬼怒川に集まり、鬼たちの帰りを待っていました。
しかし、何日経っても、鬼は誰も戻ってきませんでした。
その頃、鬼怒太も久しぶりに晴れたことを喜びました。
洞穴を出て、歩き出しました。
しばらく行くと、見慣れた場所につきました。
いつも遊んでいた鬼怒川です。
鬼怒太はホッとしてあたりを見回しました。
鬼怒太に気がついた人間たちは、大いに歓迎しました。
「大変だっただろう?」
「他の鬼たちはいつ戻って来る?」
人間に質問されても、鬼怒太は何も答えられませんでした。
鬼怒太は、今、初めて他の鬼がいないことを知りました。
人間のおじいちゃんが近づいてきて、鬼怒太に言いました。
「ひどいことを言ってすまなかった。
鬼怒川を守ってくれてありがとう。」
それを聞いた鬼怒太の目から大粒の涙が溢れ出ました。
鬼怒太は、ワーワーと声を出して泣きました。
泣いている鬼怒太に、人間の女の子が金棒を持ってやってきました。
「これ、返すね。
金棒が守ってくれたよ。」
金棒は太陽の光を浴びて、キラキラと光っていました。

そうだ、オラたちは鬼怒川を守るために、
あの大雨の中、上流をめざしたんだ。
そして、鬼怒川を守ったんだ。
だから、
だから、
今度は、オラが鬼怒川を守るんだ。

・・・それからずっと鬼怒太は鬼怒川を守っています。
鬼怒川を訪れた際は、ぜひ鬼怒太に会ってみてください・・・
鬼怒川エリアのあちこちに展示されている鬼怒太、生みの親は日本を代表する陶壁作家である藤原育三さまです。今回、童話を書くことを快く承諾していただき、ありがとうございました。
最後までお読みいただきありがとうございます。