「自分で曲を作ってみましょう。」
音楽の時間、先生が言った。
楽譜は、4小節ぶん。
「むーりー。」
クラスの男子が叫んだ。
「音楽は音を楽しむことです。
自分の好きな音をつかって、曲を作って、楽しみましょう。」
先生は楽しそうだ。
配られたプリントには、本当に4小節しか書かれていなかった。
クラスの子がピアニカを弾きながら、楽譜に音符を書いていく。
いろいろな音がクラスに響いた。
私も、ピアニカで音を出してみる。
ドレミファソラシド。
なんの音にしよう?
ピアニカで弾いて、楽譜に書いて、
楽譜に書いたのをピアニカで弾いて・・・
なんとか4小節、音符を書いた。
次の音楽の時間、作曲した曲の発表だった。
一人ずつ自分で作った曲を自分で演奏する。
みんな同じ4小節。
みんな同じ音階。
でも、みんな違う曲。
全然、違う曲。
高い音、低い音を繰り返した激しい曲。
伸ばして、伸ばして、急に終わった曲。
ずっと低い音の曲。
こんなに違うんだあ。
みんな違う音を持っている。
みんな違うリズムを持っている。
これが個性なんだ。
初めて見えたみんなの個性。
中でも、一番ビックリしたのは、
先生が「はいどうぞ」と言っても、
4小節、一音も弾かなかった子がいた。
そんなのあり?って思っちゃった。
その子はずっと立っていただけだったのに
先生は、その子の楽譜を見て、「すごい」と言った。
なにがすごいんだろう?
私の頭の中は、「?」でいっぱいになった。
音楽の時間が終わると、私は一音も弾かなかった子の席に駆けていった。
楽譜を見たら、思わず「すごっ!」と言ってしまった。
4小節にびっしり、4分休符、2分休符、8分休符、全休符が
いくつも書かれていた。
一音も弾かないはずなのに、なぜか楽しい楽譜になっている。
4小節の中で、休符たちが歩いて、動いて、笑っている。
その子の4小節は、物語だった。
「天才!!」
私は、その子の肩を叩いた。
その子は照れて、頭をかいた。