「学校に行っても、何もいいことがない。」
ぼくがポツリというと、
「ついてない日のおまじないを教えてあげるね。
いいことがある、いいことがあるって言いながら学校に行くと、
いいことがあるよ。」
と、お母さんが教えてくれた。
ぼくは、言われた通り、「いいことがある」と言いながら、
学校まで歩いた。
でも、何もいいことはなかった。
ぼくは、放課後、お母さんの仕事が終わるまで、
ばあちゃんと一緒に過ごす。
おやつを食べながら、今日のことを話した。
「いいことなんか、何もなかった。」
ぼくが言うと、
「それは、良かった。なんにもないことが、いいこと。」
と、ばあちゃんが言った。
次の日も、ぼくは「いいことがある。」と言いながら、
学校まで歩いた。
そうしたら、本当にいいことがあった。
おやつを食べながら、今日のことをばあちゃんに話した。
「今日の給食じゃんけんで勝って、おかわりできたんだ。
本当にいいことがあったんだよ。」
ぼくが言うと、
「それは、良かった。」
ばあちゃんが嬉しそうに笑った。
次の日も、もちろん「いいことがある」と言いながら歩いた。
昨日、いいことがあった。
今日は、もっといいことがあるかもしれない。
ぼくは期待して、学校まで歩いた。
でも、その日は・・・
おやつを食べながら、今日のことをばあちゃんに話した。
「今日、給食のおかわりじゃんけん、
参加しなかったんだ。」
ぼくが言うと、
「お腹いっぱいだったのか?」
ばあちゃんが言った。
「違う。昨日勝ったから、負けた友だちに譲った。」
ぼくが言うと、
「それは、良かった。
いいことのおすそわけをしたんだね。」
ばあちゃんが言った。
次の日も、「いいことがある」と言いながら、学校まで歩いた。
歩いていたら、友だちが四つ葉のクローバーをくれた。
「いいの?」
「うん、あげる!」
友だちが笑った。
いいことがあるって、お母さんが教えてくれたおまじない。
ぼくにいいことがあると、誰かにいいことをしてあげたくなって、
きっと、その誰かも別の誰かにいいことをしたくなって、
そうやって、世界がいいことだらけになったらいいなあ。
と、ぼくは四葉のクローバーを見ながら思った。
ぼくは毎朝「いいことがある」と言いながら、学校まで歩く。