おじいちゃんの好きなお酒、
おじいちゃんの好きなせんべい、
おじいちゃんの好きなゴルフのボール・・・。
おばあちゃんは、せっせと仏壇に供えていく。
「なにをしているの?」
「おじいちゃんがきたときに、喜ぶでしょ?」
私は、慌ててキッチンにいるお母さんの所に走った。
「ねえ、ねえ、おばあちゃんが、おばあちゃんが、」
「おばあちゃんがどうしたの?」
「ボケた・・・」
お母さんが「は?」という顔をして、私を見ている。
「死んだおじいちゃんが来るって言っている・・・」
私は小さな声で答えた。
お母さんは大きな声で笑った。
「お盆の準備をしているんでしょ?
お盆は、死んだ人が会いに来る日なんだよ。」
「どうやって?何をしに?なんで?」
お母さんがまた笑った。
「おばあちゃんの方が詳しいから聞いてごらん。」
おばあちゃんは、仏壇をキレイに掃除していた。
「おばあちゃん、おじいちゃんがくるの?」
「そうだよ。」
「天国が楽しくないの?」
「どうかな?楽しんでいると思うよ。」
「おじいちゃんは、どうやってくるの?」
「牛に乗ってやってくるんだよ。」
「おじいちゃん、牛飼ってるの?」
「お盆の時だけ、貸してもらえるのかもね。」
「おじいちゃんは、どうしてくるの?」
「みんなに思い出してほしいからかな?
死んじゃっても、みんながおじいちゃんの話をすると、
おじいちゃんは喜ぶんだよ。」
「どうして?」
「それは、みんなの心の中で生きてるってことだからね。」
「死んでるのに生きてるの?
・・・・
あー!!!
スイカもお供えしようよ。」
「どうして?」
「この間、お母さんがスイカを食べた時、
《あー、生き返る》って言ってた。
おじいちゃんもスイカを食べたら、生き返るよ。」
「アハハハ。そうだね。スイカも買ってこようね。」
「おじいちゃんのお供え、多すぎじゃない?」
「おじいちゃん、喜ぶでしょ?」
「おじいちゃんがきたら、お礼してくれるかな?」
「どうだろうね。」
おばあちゃんは、毎日、仏壇にお茶をあげている。
きれいなお花も飾ってある。
美味しそうなお菓子も、いつも仏壇にある。
いつだって、おじいちゃんはたくさんもらっている。
おじいちゃんがくるなら、
おばあちゃんにちゃんと「ありがとう」を言ったほうがいいのに。
でも、おじいちゃんがきたって、どうやって分かるの?
「おばあちゃん、おばあちゃん!」
お母さんが慌ててやってきた。
そして、おばあちゃんと私を庭に連れて行った。
お母さんは嬉しそうにタチアオイを指さした。
毎年、真っ赤な花を咲かせるタチアオイ。
今年もキレイに咲いている。
「あ!!」
その中の一つだけ、なぜかピンク色のタチアオイが咲いていた。
「おばあちゃんの好きな色はピンク色でしょ?
きっとおじいちゃんが咲かせてくれたのよ。」
お母さんが嬉しそうに言った。
「そうだね。おじいちゃんが来てくれたんだね」
おばあちゃんは、優しく笑った。