ウサギとカメの真実 【創作童話】

「よーい、ドン!」

ウサギは走り出しました。

あっという間にカメの姿は見えなくなりました。

「遅い、遅い、あれで勝つ気なのか?」

ウサギは、山の中腹までくると、

ふうーっと息をはいて、歩き出しました。

 

そこへ、カメの妹が現れました。

カメの妹は、どうしてもカメに勝って欲しくて、

山の中腹でウサギのことを待ち構えていました。

「うさぎさん、お兄ちゃんに負けてくれない?」

ウサギは突然現れたカメの妹にびっくりしましたが、首を横に振りました。

「そんなズルはできないよ。

 これは、真剣勝負なんだから。」

でも、カメの妹は、引き下がりません。

両手を広げて、「とうせんぼ」しながら言いました。

「じゃあ、なぞなぞに答えられたら、通っていいよ。」

「そんな暇ないんだよ。」

ウサギは軽くあしらいました。

カメの妹は、話を止めません。

どうしても、カメに勝ってほしいのです。

「問題、海の中にいるカメは何でしょう。」

「しょうがないなあ。

 答えは・・・ワカメでしょ。

 その問題、君の兄さんがいつも出すなぞなぞだよ。

 じゃあ、次は、ぼくから問題。

 はずれたら、邪魔しないでね。

 山の上から見えるカメはなんだ?」

「え?」

「分かるまで、そこで考えていてね。

 はい、じゃあ、もういくね。

 約束だよ。邪魔しない。

 そろそろ、カメくんに追いつかれちゃうよ。」

どうしよう、どうしよう。

カメの妹は考えました。

もうこれしかありません。

イチか、バチかの催眠術です。

「ウサギさん、あなたはだんだん眠くなる。眠くなる。」

しょうがないなあ。少しだけ、寝たふりをしてあげよう。

「ふぁああ。なんだか眠くなってきたああ。」

ウサギは、あくびをして、その場で横になりました。

「うそ、やったあ。」

カメの妹は、ウサギが寝たのを見て、とても喜びました。

カメの妹が山の下を見ると、カメがゆっくり歩いてくるのが見えました。

カメの妹は、カメに見つからないように

急いでゴールに先回りをしました。

 

カメの妹が行って、カメも通り過ぎたあと、

ウサギは、よいしょと立ち上がり、肩をグルグル回しました。

「ここから、大逆転だあー。」

思いっきり走り出した第一歩、何かにつまづいて転んでしまいました。

「おっとっとっと。」

バランスを崩したウサギは、そのまま下に転がって行きました。

ウサギがつまずいたのは、カメの弟でした。

カメの弟は、カメのゴールをお祝いしたくて、

カメの後を追いかけて歩いていました。

そこへ、勢いよく走り出したウサギに踏まれそうになり、

とっさに甲羅に隠れました。

ウサギは、その甲羅につまづいてしまったのです。

カメの弟は、ゴツっと音がしたあと、そっと甲羅の外に顔を出しました。

周りに見渡しましたが、誰もいません。

転んだウサギは、はるか下の方にいます。

「まあ、いっかあ。」

カメの弟は、カメがゴールする山頂を目指し歩き始めました。

 

「あたたたた。」

転んで足を痛めてしまったウサギ。

でも、まだ諦めていません。

あるき出そうとした時、カメの姉さんに会いました。

カメの姉さんは、ゴールしたカメのお祝いをしようと、

後から追いかけていたところでした。

「あれ?競争していると思ったのに、

 ウサギさん、こんな所で何をしているの?」

「カメの姉さん。

 実は転んで、足をくじいてしまったみたいなんだ。」

「それじゃあ、山頂まで走れないでしょ?

 競争は中止にしようか?」

「大丈夫。今からでも、間に合うと思う・・

 いたたた。」

可哀想に思ったカメの姉さんは言いました。

「私がマッサージしてあげるよ。

 少しは、よくなると思うよ。」

カメの姉さんのマッサージは、どんな体の痛みもとれてしまうと有名でした。

ウサギは山頂をみました。

カメはまだゴールしていないようです。

カメの姉さんにマッサージをしてもらって、足の痛みが取れれば、

きっと勝てる。

ウサギは、そう思いました。

ウサギは、カメの姉さんにマッサージをお願いしました。

はじめは、とっても痛かった足の痛みがだんだん和らいできました。

次第に体がポカポカしてきて、とってもいい気持ちです。

ウサギは、だんだん眠くなってきました。

 

「はい、おしまい。」

カメの姉さんが声をかけましたが、ウサギは気持ちよさそうに寝ています。

「痛みはとれたみたいね。よかった。」

カメの姉さんは、カメのゴールをお祝いするため、

ウサギを置いて山を登っていきました。

 

「ふああああ。いい気持ち。」

やっと目を覚ましたウサギ、

山頂に目をやると、もうすぐカメがゴールをするところでした。

「いそげ!いそげ!」

ウサギは、一生懸命走りました。

 

山頂では、カメがゴールしました。

「お兄ちゃん、おめでとう!

 ウサギさんに勝ったね。」

カメの妹が喜んでいます。

あれ?もしかして、まだウサギは寝ているのかな?

どうしよう。催眠術、解かなくちゃ!

カメの妹は、ドギマギしていました。

 

遅れて、カメの弟がきました。

カメの弟は、周りをキョロキョロして、

ウサギの姿を探しましたが、ウサギはどこにもいません。

もしかして、カメが勝ったの?

「お兄ちゃんがウサギさんに勝った!」

カメの弟は大きな声で言いました。

 

かなり遅れて、カメの姉さんが山頂につきました。

カメの姉さんは、カメに近づき言いました。

「おめでとう。頑張ったね。

 ウサギさんは、不運だったわね。」

カメは、首をかしげました。

 

そこへ、ようやくウサギが走ってきて、ゴールしました。

こうして、ウサギはカメに負けてしまいました。

 

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