「ママー、いちごのヘアゴム知らない?」
娘の部屋から大きな声が聞こえた。
覗いてみると、床一面におもちゃが散らかっている。
「ママ、いちごのヘアゴムが一個しかないの。」
「そうなんだ。」
そう言いながら、おもちゃを片付けていく。
「お食事中のお人形さんは、片付けてもいいの?」
「ダメ!まだ食べてる。」
「ここにある絵はしまっていいの?」
「ダメ!まだ書いてる途中なの。」
「このドレスは?」
「あー、それは・・・。」
「あのね、こんなに汚い部屋だから、いちごのヘアゴムがなくなるのよ。」
私は、大きくため息をついて、娘の部屋を出た。
娘は片付けができない。
困ったなあ。
もうすぐ1年生になる。
自分の用意や身の回りのこと、ちゃんとできるのかな?
夜、寝る前には本を読むようにしている。
娘が選んだ本は「こびとのくつや」だった。
読み終わると、娘が聞いてきた。
「こびとさん、わたしのお家にもいるの?」
「うーん、いるかもね。」
「何してくれるかな?」
「お部屋が散らかっている子には、いたずらするかもよー。
いちごのヘアゴムを隠すとか?」
「えー、そんなの嫌だ。
こびとさんはいい人だから、そんなことしないよ。」
「じゃあ、いい人のこびとさんは、ヘアゴムをちゃんと大切に使ってくれる人、
ちゃんと片付けてくれる人のところに持っていったんじゃない?」
「大切にしていたよ。」
「そうなの?
お部屋がキレイになったら、ヘアゴムも戻ってくるかもね。」
次の日、娘と小学校まで歩く練習をした。
ランドセルに飲み物、お菓子を入れた。
ここは信号があるから、気をつけようね。
道路の端を歩くんだよ。
走らないで歩こうね。
心配が思わず、声に出てしまう。
楽しく歩こう。そう思っていた時、
「あ!」
道端に落ちていたシュシュを娘が見つけた。
「これ、小学生のおねえさんのかな?」
「そうだね。きっと、探しているね。」
「なんで、こんなところに落ちているんだろう・・・・。
あ、わかった!こびとさんが落としたんだよ。
大切にしてくれる人に届ける途中で、シュシュを落としちゃったんだ。
私のいちごのヘアゴムも、落ちているかも!!」
そう言って、娘はキョロキョロと周りを探し始めた。
結局、いちごのヘアゴムは見つからず、シュシュはまたこびとさんが拾いにくるからと、その場所に置いて帰ってきた。
「へやの掃除をする。」
と、娘が言うので、一緒に部屋の片付けを始めた。
「これは、いる?」
「これは、まだ遊ぶ?」
一つずつ確認しながら、片付けていく。
少しずつ、床が広くなっていく。
「ママ、いちごのヘアゴムあった。
このぬいぐるみのポケットに入ってた。」
「良かったね。」
「うん。ちゃんと片付けしたから、こびとさんが戻してくれたんだよ。」
娘の部屋は、とりあえずきれいになった。
「また、こびとさん来てくれるかな?」
嬉しそうに娘がいった。