雪が解けていく【創作童話】

「うるせー!」

まただ。

反抗期の間は、仕方がない。

大人になる準備だ。

分かっているが、言葉の矢が真っ直ぐに飛んでくる。

それも、毎日。毎時間。毎分・・・。

反抗期は、季節に例えると、冬かもしれない。

反抗期の雪が、どんどん積もっていく。

 

こちらが何を言っても、聞いていない。

口を一文字にして話さない、雪だるまのように。

 

そうかと思えば、突然、怒り出すときもある。

何本も落ちてくる氷柱ように。

 

そうかと思えば、そそくさと部屋に駆けていく。

まるで、横を滑っていくソリのように。

 

そして、自分の部屋から出てこない。返事もしない。

まるで、かまくらの中にいるように。

 

この冬は、いつ終わるのだろう?

この雪は、いつ解けるのだろう?

 

今日は、息子の卒業式。

反抗期にも、卒業式があればいいのに。

そう思いながら、会場に向かった。

入り口で名前を言うと、先生から手紙を渡された。

息子の字だ。

卒業生から親への手紙だそうだ。

 

席に座り、手紙を開く。

反抗期の息子は、何を書いた?

 

「感謝しています。」

 

大人でも、子どもでもない。

反抗期の息子の言葉。

 

あー、ダメだ。

文字に涙が落ちていく。

あー、ダメだ。

卒業式が始まってもいないのに、

涙が止まらない。

 

息子の手紙で、

私の涙で、

心に積もった反抗期の雪が解けていく。

 

 

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