コウノトリの仕事は、赤ちゃんをお母さんに届けることです。
その日、初めて赤ちゃんを届けるコウノトリがいました。
雲の上で、コウノトリは眠っている赤ちゃんを真っ白い布で優しく包み、自分の体にしっかりと結びつけました。
丸い月が輝く静かな夜です。
コウノトリは、準備が整うと、数回羽を広げ、深く息を吸い、思いっきり飛び出しました。
コウノトリが気持ちよく飛んでいると、
「コウノトリさーん。」
と、呼ぶ太い声が聞こえました。
コウノトリが降りて行くと、坂の上にダルマがいました。
「コウノトリさん、一緒に『ダルマさんが転んだ』をしませんか?」
「ダルマさん、ぼくは赤ちゃんを届ける途中なので、できません。」
コウノトリは、きっぱり断りました。
ダルマは、寝ている赤ちゃんを覗きこみました。
「まんまるとしたイイ子だ。オイラのように、何度でも立ち上がれる強い子になるよ。」
その時、優しい風が吹きました。ダルマは坂をゴロンゴロンと転がっていきました。
「ありがとう。」
コウノトリは、飛び立ちました。
またしばらくして、
「コウノトリさーん。」
と、呼ぶ強そうな声が聞こえました。
コウノトリが降りていくと、岩山にライオンがいました。
「コウノトリさん、一緒に『しりとり』をしよう。」
「ライオンさん、ぼくは赤ちゃんを届ける途中なので、できません。」
コウノトリは、きっぱり断りましたが、
「ねこ。」
と、ライオンは勝手にしりとりを始めました。
仕方なく、コウノトリはしりとりをしました。
「コウノトリ」
「りんご」
「ゴリラ」
「ライオン……がおー、負けたあ。」
コウノトリが急いで飛び立つと、ライオンは大きな声で叫びました。
「その子は、しりとりの得意な子になるぞお!」
「ありがとう。」
コウノトリは後ろを振り返りながら、言いました。
またしばらく飛んでいると、
「コウノトリさん」
と、呼ぶしゃがれた声が聞こえました。
声のする方を見ると、木に引っかかった凧がいました。
「すみませんが、糸をほどいてください。」
凧が申し訳なさそうに言うので、コウノトリは近くの枝にとまって、一本ずつ糸をほどいていきました。
凧は、眠っている赤ちゃんを見つめて言いました。
「いい顔して寝ているね。この子は、自分の風を上手につかって、気持ちよく飛べる子になるよ。」
コウノトリが糸をほどき終わると、凧は風に乗って飛んで行きました。
「ありがとう。」
コウノトリも、風に乗って、飛び立ちました。
赤ちゃんのお母さんのところまで、もうすぐです。
「コウノトリさーん。」
と、甲高い声がしました。
コウノトリが降りていくと、テントのそばにピエロが立っています。
「コウノトリさん、一緒に遊びましょう。」
ピエロは、りんごを指でクルクル回しています。
「ピエロさん、ぼくは赤ちゃんを届ける途中なので、できません。」
コウノトリは、きっぱり断りました。
ピエロは、眠っている赤ちゃんに笑いかけながら、
「笑顔の素敵な子になるわ。」
と、持っていたりんごをくれました。
「ありがとう。」
コウノトリは、飛び立ちました。
コウノトリの前に、空から真っ直ぐに伸びる光が見えました。
その光がさす場所に赤ちゃんのお母さんがいます。
コウノトリは、ゆっくりと光の中に入り、大きな羽で赤ちゃんを抱きしめました。
そして、赤ちゃんにだけ聞こえる声で囁きました。
空から伸びる光がパッと消え、赤ちゃんの産声が聞こえます。
コウノトリは、しっかりと赤ちゃんの声を聞いて、嬉しそうに空へと帰って行きました。
月日は流れ、10歳の誕生日の朝。
枕元に一通の手紙が置いてありました。
『たいせつな あなたへ
あなたがうまれたひ
わたしとかわした約束を
おぼえていますか
せいいっぱい しあわせにいきること
約束は、それだけです
コウノトリより』
コウノトリの仕事は、赤ちゃんをお母さんに届けること。
赤ちゃんに生きる力を与えることです。