「えー、面倒くさい。」
私が言うと、クリームがやってきて、
私の口をペロペロなめた。
「ちょっと、クーちゃん、やめて!」
私はひっくり返って、足をバタバタした。
クリームは、私のかわいいワンちゃん。
最近、ペロペロするようになって、困ってる。
「食べたお皿、早く片付けちゃって。」
ママの鋭い声が飛んでくる。
「えー、面倒くさい。」
すると、またクリームがやってきて、
私の口をペロペロする。
「ママ、クーちゃんがペロペロするー。なんで?」
私は、クリームを引き離して聞いた。
「ママにはしないよ。」
ママにはしない? なんでだろう?
また別の日。
「テーブルの上、片付けてくれる?」
ママの声が飛んでくる。
「えー、面倒くさい。」
クリームが走ってきて、私をペロペロする。
「クーちゃん、やめて。」
私は立ち上がって、逃げた。
あれ?
私が「面倒くさい」って言った時だけ、
クリームは私をペロペロするような気がする。
あ、わかった!
「くさい」が「クーちゃん」に聞こえるのかな?
犬って、耳がいいもんね。
「ねえ、ママ、『くさい』と『クーちゃん』を聞き間違えてるんだよ。
だから、面倒くさいっていうと、ペロペロされる!」
またクリームがきて、私の口をペロペロした。
ほら、やっぱりそうだ!!
そこで、実験をしてみた。
「面倒」って言った時は、クリームは来なかった。
「面倒くさい」って言った時だけ、クリームは来てペロペロする。
やっぱり、「くさい」を聞き間違えてるんだ。
あれ?
「クーちゃん」って呼んだ時は、ペロペロしないようなあ・・・?
なんでだろう?
あ、わかった!
面倒くさいって、本当にくさいんじゃないかな?
だから、口をペロペロするんだ。
犬って、鼻がいいもんね。
「ママー、面倒くさいっていうと、クーちゃんがペロペロする。」
クリームがずっと私をペロペロしている。
「じゃあ、面倒くさいって言わなきゃいいんじゃないの?」
ママは、テーブルを片付けながら答えた。
「ママ、そういうことじゃないんだよ。
面倒くさいって、本当にくさいんだよ。」
クリームがまた私の口をペロペロする。
「ママもそう思うよ。
だから、面倒くさいって、もう言わないでね。」
ママは少しイライラした声になった。
クリームはしばらくペロペロすると、どこかへ行ってしまった。
私は考えた。
面倒くさいって、いったいどんな匂いなの?
私は、クリームを捕まえて聞いた。
「くーちゃん、面倒くさいって、どんな匂い?」
クリームは思いっきりペロペロしてきた。
「クーちゃん、やめて!ストップ!」
私は走って逃げた。
それから、しばらくは「面倒くさい」と言わないように気をつけた。
「くーちゃんの散歩、行ってきて。」
ママの声が飛んでくる。
「えー、めんど・・」
私は慌てて口をおさえた。
仕方なく、クリームと散歩をした。
公園に着いたら、友達がおばあちゃんと一緒に遊んでいた。
私はベンチにリードをくくりつけて、友達と遊ぶことにした。
ブランコを漕ぎながら、友達に聞いた。
「面倒くさいって、どんな匂いだと思う?」
「え?面倒くさいの匂い?」
友達は不思議そうに聞いた。
「そう。面倒くさいっていうと、クー・・じゃなくて、犬にペロペロされるの。」
「へえ。」
友達はブランコを勢いよく漕いだ。
私と友達はブランコで、どっちが高くこげるか競争した。
「あ。そういえば、この間、病気を発見する犬がいるって本で読んだよ。」
友達が急にブランコを止めて言った。
「え?私、病気なの?」
「わかんない。
でもさ、元気な時って、面倒くさいって思わなくない?」
友達がまた思いっきりブランコを漕ぐ。
私は、ブランコに揺られながら考えた。
面倒くさいは、病気の匂いなの?
私、病気なの?
そうだよね・・・犬って賢いもんね・・・。
友達がピョンとブランコから飛び降りて、ベンチに走っていく。
私もブランコを降りて、友達の後を追った。
友達がベンチで待っているおばあちゃんに聞いた。
「面倒くさいって、どんな匂いなの?」
おばあちゃんは少し考えてから、
「とっても臭い匂い。」
と笑った。
友達と別れて、クリームと散歩した。
どこからか、いい匂いがしてきた。
夕食の匂い。
私のお腹もグーとなった。
「面倒くさいって、いい匂いだったりして。」
私が言うと、クリームが私の口を狙ってジャンプした。