大黒柱の椅子【創作童話】

じいちゃんばあちゃんの家に来た。

久しぶりのお泊りだ。

 

一日経って、気がついたことがある。

じいちゃんは、いつも椅子に座っている。

「こんにちは」って、最初に挨拶した時も、

ご飯を食べる時も、

ぼくたちが出かけて行く時も、

ぼくたちが帰って来た時も、

ずっと椅子に座って、テレビを見ている。

 

ぼくは、じいちゃんに聞いた。

「どうして、ずっと椅子に座って、動かないの?」

そうしたら、ママが答えた。

「じいちゃんは、お外で動いているから、

 家の中では動かないのよ。」

 

「じいちゃん、銅像になっちゃうよ。」

ぼくが言うと、ママが首をかしげた。

「この間、パパが石になった人のこと、

 銅像だって教えてくれた。

 じいちゃんも、動かないから銅像になるの?」

ママは笑って答えた。

「動かないから銅像になったんじゃなくて、

 いっぱい動いて偉くなった人が銅像になったの。」

 

ママが続けていった。

「じいちゃんは大黒柱だから、

 動いたら家が傾いちゃうんだよ。」

 

それから、じいちゃんとぼくは、一緒にテレビを見た。

テレビ、つまんないなあ。

じいちゃんは、椅子に座って、テレビを見ている。

じいちゃんは動かないお仕事をしているんだ。

 

突然、じいちゃんが立ち上がった。

「ママー、じいちゃんが動いた!

 家が傾いちゃうよう。」

ぼくは大きな声でママを呼んだ。

「大丈夫。トイレでしょ。すぐに戻ってくるから。」

 

じいちゃんがいなくなった椅子に妹が座った。

足をバタバタさせて、笑っている。

「じいちゃんが来たら、椅子から降りてね。」

ママが言った。

 

じいちゃんが動いたけど、家は傾かない。

もしかして、大黒柱は、じいちゃんじゃなくて、この椅子なのか?

この椅子に誰かが座っていればいいんだ!

ぼくも妹と一緒に、じいちゃんの椅子に座った。

大きな椅子。

テレビがよく見える。

これが大黒柱の椅子なんだ。

 

ぼくと妹で大黒柱の椅子に座っている。

妹が立ったり、暴れたりするたび、

ぼくは、じっとしているように注意した。

 

トイレにいったじいちゃんが、全然戻ってこない。

そろそろ大黒柱の椅子に座っていることに飽きてきた。

「ママ、じいちゃんがまだ戻ってこないよ。」

ママは庭を指さして言った。

「じいちゃん、お外で片付けしているよ。」

ぼくは、妹に

「絶対、椅子を離れちゃダメだぞ。」

と言って、外に走っていった。

 

ばあちゃんがじいちゃんに話している。

「もう少し、そこの枝、切って。」

「この荷物を、向こうに移動してほしいの。」

ばあちゃんが命令している。

じいちゃんが動いてる。

ママが言った通りだ。

じいちゃんは外で動いている。

 

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