泣くのは、ズルじゃない 【創作童話】

 

「また、泣く。

 泣くのは、ズルだよ。」

お兄ちゃんが怒って、妹が泣いている。

「どうしたの?」

ママは、妹を抱っこした。

「もっと、飲みたいんだって。

 ちゃんと、半分あげたのに。」

お兄ちゃんが説明する。

空になったペットボトルとグラスが2つ。

「そっかあ。

 飲んだから、なくなっちゃったんだね。

 また買おうね。」

「泣いたら、買ってもらえるなんて、ズルだよ。」

いつもと同じだ。

お兄ちゃんが怒る。

妹が泣く。

 

「ねえ、お兄ちゃん、地球儀を持ってきてくれる?」

「え?なんで?」

と、言いながら、お兄ちゃんが地球儀を持ってきた。

「これは、みんなが住んでる地球ね。

 この青いところが、海だよ。」

「海だらけ。」

泣いていた妹が、泣き止んで言った。

「知ってるよ、そんなの。」

お兄ちゃんは、まだ怒っている。

「では、地球のどのくらいが海でしょう?」

「半分くらい?」

お兄ちゃんが、答えた。

「もっと、多い。」

二人とも、考えている。

「地球の70%が、海なの。」

「70パーセント?」

妹が首をかしげる。

ママは、ペットボトルの7分目まで水を入れた。

「こんなに?」

妹は、驚いて、ペットボトルを見ている。

「ほとんど、海じゃん。」

お兄ちゃんも興味津々だ。

「でね、子どもの体も、地球と同じ70%が水なの。」

「うそだー。」

お兄ちゃんが大きな声で言う。

「本当だよ。」

妹が、自分の体を「プニョプニョ」と触っている。

「ほとんど、水じゃん。」

お兄ちゃんが笑った。

「そうだね。

 海の水は、ずっと海の水のままじゃなくて、

 雲になったり、雨になったりして、

 また海の水に戻るんだよ。」

「へえー。」

二人が声を揃えて言う。

「こどもの体の水も、涙になったり、汗になったり・・・。」

「おしっこにもなる。」

お兄ちゃんがクスクス笑って言った。

「そうだね。

 そして、のどが乾いたら、また水を飲む。

 そうやって、水はグルグル回っているの。

 だから、体の中にある水が、いっぱいになったら、泣いていいんだよ。

 泣くのは、ズルじゃないんだよ。」

お兄ちゃんは、何も言わなかった。

ママは、お兄ちゃんをギューッとした。

そして、こっそりお兄ちゃんに言った。

「お兄ちゃんだって、泣いてもいいんだよ。」

 

 

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