こんにちは エプロンです。 【創作童話】

『こんにちは。

 エプロンです。

 午前10時ですが、まだ寝ますか?』

「仕事で疲れているんだ。

 もう少し寝かせてくれ。」

『では、明日の朝、6時に起こします。』

 

『おはようございます。

 エプロンです。

 朝、6時です。 

 起きてください。』

「はあーあ、まだ眠いよ。」

『エプロン装着完了です!

 ママと赤ちゃんを起こさないように起きましょう。』

「なんだ、なんだ!?

 体が、勝手に・・・」

『静かにお願いします。

 昨晩も赤ちゃんは、夜泣きで5回起きています。

 ママも、5回起きています。』

「え?

 全然、気が付かなかった。」

エプロン姿のオレは、体が勝手に動いていく。

まずは、朝ごはんの準備だった。

洗米して、炊飯器にセット。

『赤ちゃんが泣いています。

 ママを起こさないように抱っこしましょう。』

寝室に行くと、ママが寝ながら、泣いている赤ちゃんをポンポンしている。

オレは、そっと赤ちゃんを抱き上げる。

ママが、びっくりした顔で起き上がる。

「大丈夫。

 寝てて。」

オレの口が勝手に話す。

エプロンに支配されたオレは、赤ちゃんを抱いて、部屋を出た。

あれ?

こんなに重かった?

生まれた時は、小さくて、壊れそうだったのに。

あれ?

抱っこしたのは、いつぶりだ?

こんな顔して、泣くんだ。

変な顔、でも、かわいいなあ。

泣くな。泣くな。

大丈夫。大丈夫。

『オムツを取り替えましょう。』

オレの体が勝手に動く。

赤ちゃんを座布団の上に寝かせる。

わお。

結構、してますね。

優しくふいて、ふいて、ふいて・・・。

あ、お尻拭きが山のようになってしまった。

まあ、きれいになったから、いいや。

まだ、泣いているなあ。

『ミルクの用意をしましょう。』

お湯沸かす。

ママが起きてきた。

「今、ミルクを作っている。」

オレの口が勝手に話す。

ママが赤ちゃん抱き上げて、オレを見ている。

「どうしたの?

 私がやるよ。」

「大丈夫。

 昨日も、全然寝てないでしょ?」

オレの口が勝手に話す。

オレの体が勝手に動いて、ミルクを作っている。

ママにミルクを渡そうとしたら、

「パパがあげたら?」

と、赤ちゃんを渡された。

結構な力で、吸っている。

「かわいいでしょ?」

「かわいいね。」

赤ちゃんは、飲みながらながら寝てしまった。

 

『こんにちは。

 エプロンです。

 午前10時ですが、まだ寝ますか?』

「ああ、仕事で疲れてて、もう少しだけ寝かせて。」

あれ?

この声・・・1年前にも聞いた。

オレは、飛び起きた。

『エプロン装着完了です。

 ママと子どもは、もう起きています。』

オレの体が勝手に動く。

「おはよう。

 今日は、ママのリフレッシュデーにしよう。」

オレの口が勝手に動く。

「洗濯は?」

「終わった。」

「掃除は?」

「まだだけど、

 いいよ、疲れているでしょ?」

「大丈夫、大丈夫。」

オレは、子どもを抱っこする。

「ママー。」

こどもが、若干、嫌がっている。

下ろしたいが下ろせない。

体が勝手に動いている。

「ヒコーキだー。」

オレの体が勝手に子どもを抱えて、上下に揺らす。

こどもの笑い声は、くすぐったいな。

「肩車だ!」

オレの体が勝手に動く。

左手で肩に座る子どもを押さえて、右手で掃除機をかける。

子どもがキャッキャして、よく動く。

「あぶない、あぶない」と言いながら、ママが笑っている。

ママがこんなに笑っているのを久しぶりに見た。

 

こどもが3歳になった。

こどもと庭で砂場遊びをしている。

「パパ、雨。」

「ホントだ。

 よし、お片付けして、お家にいそげー。」

「パパ、お洗濯、ぬれてる。」

「オッケー。パパ頑張るよー。」

急いで洗濯物を入れる。

洗濯物の中に見覚えのあるエプロンが。

これって?

「洗濯物を入れてくれて、ありがとう。」

ママが来た。

「このエプロンって、いつ買ったの?」

「それは、パパのお母さんから出産祝いで頂いた物でしょ?

 忘れちゃったの?

 パパ、そのエプロンを着た時だけは、別人のように子育てしてくれたよね。

 ちょっと、待っててね。」

ママがカードを持って、戻ってきた。

「エプロンと一緒に頂いたカードだよ。」

カードには

”母は楽し 父も楽し”

と書いてある。

「よく、『母は強し』っていうよね?

 でも、お母さんにとっては、『母は楽し』だったみたい。

 私も、『母は楽し』の方が好きだな。」

そっかあ。

父親の楽しさを教えるためにエプロンはオレのところに来たのか。

オッケー、

オレも、父を楽しむぞ!

 

1330stars.hatenablog.jp