立ち上がる勇気 【創作童話】

電車に乗り込む。

空いている席が優先席しかなかった。

ひとまず、優先席に座る。

 

次の停車駅で、マタニティキーホルダーをつけた人が乗ってきた。

優先席の私は、思わず、下を向いてしまった。

《キラキラリン》

電車では聞いたことがない音楽が流れた。

その後にアナウンスが流れる。

《そのマタニティキーホルダーをつけている人は、神様です。

 席を譲った人には、これから先の永遠の幸せが約束されます。》

向かいの優先席に座っていた人が立ち上がり、

マタニティキーホルダーの人に席を譲った。

電車が、ゆっくりと走り出す。

 

次の停車駅でも、マタニティキーホルダーをつけた人が乗ってきた。

《キラキラリン》

電車では聞いたことがない音楽が流れる。

その後にアナウンスが流れる。

《マタニティキーホルダーをつけている人に、

 席を譲らない場合には、罰金がかかります。》

私の左隣に座っていた人が立ち上がり、

マタニティキーホルダーをつけた人に席を譲った。

電車がゆっくりと走り出す。

 

次の停車駅でも、またマタニティキーホルダーをつけた人が乗ってきた。

《キラキラリン》

電車では聞いたことがない音楽が流れる。

その後にアナウンスが流れる。

《そのマタニティキーホルダーをつけている人は、

 先日、あなたの両親を助けてくれた人です。》

私の右隣に座っていた人が立ち上がり、

マタニティキーホルダーをつけた人に席を譲った。

電車がゆっくりと走り出す。

 

次の停車駅でも、またマタニティキーホルダーをつけた人が乗ってきた。

《キラキラリン》

電車では聞いたことがない音楽が流れる。

その後にアナウンスが流れる。

《小学校の道徳の時間です。

 先生が質問します。

 妊婦さんに席を譲らない人がいます。

 どう思いますか。

 子供たちが口々にいいます。

 ひどい人だと思います。》

向かいの優先席に座っていた人が立ち上がり、

マタニティキーホルダーをつけた人に席を譲った。

電車がゆっくりと走り出す。

 

周りを見渡すと、向かいの席も、右隣も、左隣も、

私以外は、みんなマタニティキーホルダーがついた人が座っている。

 

次の停車駅でも、マタニティキーホルダーをつけた人が乗ってきた。

私は、すぐに立ち上がり、席を譲った。

 

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