ハマナス姫は、5歳になりました。
とっても人見知りで、いつも女王様の後ろに隠れています。
明日、ハマナス姫の一番上のお姉さん、オンディーナ姫が結婚します。
オンディーナ姫は、いつも、ハマナス姫のことを心配していました。
このままでは、国中の人に覚えてもらうことも、
結婚することもできないかもしれない。
女王様に相談しても、「大丈夫よ。」と言われてしまいます。
そこで、オンディーナ姫は、ハマナス姫におつかいを頼むことにしました。
オンディーナ姫は、自分の部屋に、ハマナス姫を呼びました。
「私は、明日、結婚します。
でも、明日使う大切な手紙を、友達の家に忘れてきてしまったの。
ハマナス姫、どうか、取ってきてくれないかしら。」
「そんなの、その友達に持ってきてもらえばいいじゃない。」
ハマナス姫は、全く乗り気ではありません。
「その友達はケガをして、持ってこられないのよ。」
「じゃあ、執事に頼めばいいじゃない。」
「みんな、明日の準備で忙しいのよ。
お願い、頼めるのは、ハマナス姫だけなの。」
ハマナス姫は、少し考えましたが。。。
「でもでも、お外に行くんでしょ?」
「すぐ、近くよ。地図も書いたわ。」
ハマナス姫は、地図をみました。
お城が大きく書かれていて、近くに黄色い家が書かれています。
「わたし、一人で行くの?」
「いつも一緒のしろくまさんや、ひかりちゃんも連れて行っていいよ。」
ハマナス姫は、急に笑顔になって、言いました。
「じゃあ、変身してくる。」
「え?」
ハマナス姫は、自分の部屋に走っていきました。
ピンク色の忍者の姿で戻ってきたハマナス姫。
「まさか、その格好で行くの?」
「これなら、誰も話しかけてこないでしょ?」
「まあ、そ、そうね。」
ハマナス忍者は、くるりと回ってみせました。
いつものリュックを背負っています。
「リュックには、何が入っているの。」
中から出てきたのは、
大好きなシロクマのぬいぐるみ、
ガラスの宝石のひかりちゃん、
分厚い辞書、
手持ちの扇風機、
オモチャのメイクパッド、
動物カード。
「全部、必要なの?」
「うん!」
嬉しそうにリュックにしまっていくハマナス忍者。
「まあ、いいでしょう。」
オンディーナ姫は、地図を渡しました。
「気をつけてね。」
「いってきまーす。」
どことなく嬉しそうに出かけていったハマナス忍者。
本当に大丈夫なんでしょうか。
お城を出たハマナス忍者は、本物の忍者のように、壁や柱に隠れながら進みます。
でも、ピンク色の忍者は目立ちます。
まだお城を出て、数メートルしか進んでいませんが、
ハマナス忍者はリュックから手持ちの扇風機を出しました。
「はあ、今日は、暑いわね。」
今度は、辞書を広げて、読んでいるふりをしています。
「ふむふむ、なるほどね。」
オモチャのメイクパッドを出して、鏡を見ながらメイクします。
「よし、きれいになったわ。」
その様子をオンディーナ姫はお城から双眼鏡で見ていました。
「全然、進んでないわ。大丈夫かしら。」
ハマナス忍者は、ひかりちゃんを手に乗せて、話し始めました。
「オンディーナ姫は、明日、結婚するっていうのに、
大切なお手紙を忘れてちゃったっていうの。
本当に、困ったお姫様ね。」
太陽の光が反射して、ひかりちゃんは、キラリと光りました。
ハマナス忍者の顔にも、光がキラリ。
「何、持っているの?」
ハマナス忍者に、子供が話かけてきました。
びっくりしたハマナス忍者、急いでひかりちゃんをしまって、逃げました。
でも、子供は追いかけて来ます。
走って、走って、一生懸命走って、
ハマナス忍者は、転んでしまいました。
お城だったら、「わー、わー。」と大声で泣きますが、ここは外。
恥ずかしくて、泣くことができません。
ハマナス忍者は、寝そべったまま、起き上がることもできません。
「大丈夫だよ。」
可愛い声に、ハマナス忍者は顔を上げました。
目の前に、大好きなシロクマさんがいます。
「一緒に、お友達のお家に行こう。」
シロクマさんは、モフモフの手を差し出しました。
シロクマさんは、ハマナス忍者をおんぶして、のそのそ歩きます。
「わたしには、できない。
どうして、こんな大切なお仕事を、
オンディーナ姫は、わたしに頼んだの?」
ハマナス忍者は、しろくまさんの背中に顔をうずめます。
しろくまさんの背中は、ふわふわで温かいです。
その温かさは、オンディーナ姫の優しさに似ていました。
「シロクマさん、おろして。
やっぱり、歩く。」
ハマナス忍者が背中から下りると、シロクマさんはぬいぐるみに戻りました。
「ありがとう。」
ハマナス忍者は、シロクマのぬいぐるみをリュックに入れました。
ハマナス忍者は、もう一度、オンディーナ姫からもらった地図を眺めました。
横にして、眺めました。
逆さにして、眺めました。
また、横にして、眺めました。
ハマナス忍者は、自分がどこにいるのか、これからどこに行くのか、
全く分かりませんでした。
リュックからひかりちゃんを出します。
「どうしよう。分からないの。」
ガラスの宝石に太陽の光があたり、地図の上に虹ができました。
虹は、お城とお友達の家を結んでいます。
ハマナス忍者は、顔を上げ、周りを見回しました。
そして、小さな橋を見つけました。
「分かったわ。橋を渡るのね。
ひかりちゃん、ありがとう。」
ハマナス忍者は、もうコソコソ隠れたりしません。
橋の真ん中を堂々と走っています。
「ドテッ。」
ハマナス忍者は、転んでしまいました。
でも、すぐに立ち上がります。
手の砂をはらって、また走ります。
ハマナス忍者の目は、まっすぐ前を向いています。
お友達の家に着きました。
地図の絵と同じ黄色い家です。
ハマナス忍者は、大きく息を吸いました。
「オンディーナ姫に頼まれてきました。」
少し待ちましたが、返事はありません。
もっと、大きく息を吸いました。
もっと、もっと大きな声で言いました。
「オンディーナ姫に頼まれてきました。」
「どうぞ、入ってください。」
中に入ると、ベッドに寝ている人がいました。
寝ている人は、帽子をかぶって、マスクをしています。
顔が見えません。
「えっと、えっと。あ!そうそう。」
ハマナス忍者は、リュックから動物カードを出しました。
「これ、あげます。」
「あ、ありがとう。もらって、いいの?」
「うん。ケガして、たいへんでしょ。
だから、プレゼント。」
「ありがとう。
オンディーナ姫のお手紙は、テーブルの上にあるの。」
お友達が指さしたテーブルに、薄い紫色の封筒があります。
ハマナス忍者は、封筒をリュックにしまいました。
「あ、中を確認してくれる?」
「あー、大丈夫です。」
「一応ね。大切なお手紙だから。」
「あ、はい。」
ハマナス忍者は、リュックから封筒を出して、手紙を開きました。
『だいすきなハマナスひめへ
とてもよくがんばりました。
わたしは、ぜったいにできると しんじていました。
オンディーナひめより』
ハマナス忍者は、首をかしげて、考えます。
ベッドに寝ていたお友達が帽子とマスクをとりました。
そこにいたのは、オンディーナ姫でした。
「オンディーナ姫!?
なにをしているの?」
「ハマナス姫を待っていたのよ。」
執事が部屋の奥から花束を持って出てきました。
「ハマナス姫にプレゼントよ。これは、ハマナスの花よ。
ハマナス姫の名前の由来になった花なのよ。」
紅紫色の大きな花は、とても甘くて良い香りがします。
ハマナス忍者は、うっとりして微笑みました。
「ハマナス姫。
あなたは、とっても、素敵なお姫様よ。
あなたの笑顔は、とっても素敵よ。
私は、みんなにハマナス姫の良さを知ってほしいの。
こんなに素敵なお姫様がいることを知ってほしいの。
だから、もう王女様の後ろに隠れたりしないで、
みんなに、あなたの笑顔をみせてほしい。
きっと、みんなは、あなたを好きになるわ。」
ハマナス忍者は、もう一度、ハマナスの花の香りを思いっ切り吸い込みました。
「分かったわ。忍者を卒業するわ。」
次の日、オンディーナ姫の結婚式が盛大に行われました。
紅紫色のドレスを着たハマナス姫が、女王様の隣で、にっこり笑っていました。