高校二年の夏休みが始まった。
そろそろ、進路を決めないと・・・。
就職か、進学か。
特にやりたいことは、ない。
ただ、この家を出ていきたいと思っている。
とりあえず、出ていくために、部屋の片付けを始めている。
押入れのダンボール。
もう、何が入っているのか、分からない。
ほとんどが、小学校の頃のモノか、中学校の頃のモノだ。
一応、小学校のダンボールから開けてみる。
成績表とか、ちゃんと残してある。
友達からもらった手紙、作文帳、クラスの思い出・・・。
「あ、『たこしょうかい』だ。」
『たこしょうかい』は、小学校4年生の時に作った。
4年生の担任は、とても元気な人だった。
「自己紹介ではなく、他己紹介をしましょう。」
担任の先生が、そう言いながら、画用紙を配った。
半分に折って、表紙に『たこしょうかい』と書いた。
毎週金曜日に、先生がカードを配る。
そのカードに、クラスの人の良いところを書く。
自分宛てに書いてもらったカードを、
自分の「たこしょうかい」の開いたページに貼っていく。
はじめは、同じグループの人のこと。
次は、名前の順の前後の人。
その次は、席替えをして、新しいグループの人のこと。
その次は、まだ書いていない人のこと。
そうして、全員が、クラス全員分の『たこしょうかい』を書き終えた。
その後の毎週金曜日は、
「1枚以上。何枚でも、書いていいよ。
クラスの誰かの他己紹介をしよう。」
と、先生が言って、『たこしょうかい』がどんどん増えていった。
懐かしいな。
久しぶりに、『たこしょうかい』を開く。
うわっ。字が大きい。
私のことを書いてくれたクラスメイトの文字だ。
なんて、書いてくれてたかな?
『黒板を消していた。』
これは、褒めているのかな?
『図工のとき、ハサミをかしてくれました。』
そんなこと、あったかな?
『ほけん室に、いっしょにいってくれて、ありがとう。』
友達の字が、懐かしい。
『学級新聞の絵が、おもしろいです』
この頃は、よく絵を描いていた。
『ノートの絵が、かわいい』
ノートに落書きしていたことを思い出した。
『空をいろんな色でぬっていた。(ずこうのとき)』
真っ白い画用紙がいろんな色に変わっていくの楽しかった。
『遠足のしおりがきれいにぬってあって、すごいと思います。』
そうそう、私のしおりだけ、カラフルになってて、
みんなが驚いてたなあ。
『まんが家になれるくらい、絵がうまい!!!!!』
びっくりマーク、多すぎだわ。
『先生のにがお絵が似てた。』
みんなのリクエストにこたえて、描いてたなあ。
一通り読み終えて、裏表紙を見た。
『他人を認める。自分を認める。
たこしょうかいは、君を応援しています。』
先生の言葉の下に、私が描いた花束を持ったタコの絵がある。
花束を持ったタコは、ニコニコ笑っている。
私は、急に絵が描きたくなった。
その辺のノートを開いて、タコの絵を描いた。
何回も、何枚も、いろんなタコを描いた。
そして、気がついた。
私は、やりたいことがなかったんじゃなくて、
やりたいことを忘れていたんだ。
高校二年の夏休み。
小学4年生のクラスメイトからのメッセージは、
真っ直ぐで、明るくて、パワフルで、
私に進む道を教えてくれた。