息子の反抗期が始まった。
「うざい」「黙ってて」「ほっといて」
暴言の日々だ。
息子の部屋へは、立ち入り禁止になった。
部屋をノックすると、
「合言葉は?」
と聞かれる。
答えても、部屋には入れないのに、なぜか言わされる。
リビングに居る時は、ダンボールを頭から被っている。
「ここにはいません」と、隠れ蓑術を使っている。
階段の上から下まで、手すりに沿って、タコ糸が通っている。
そこに紙コップが上下するようにできている。
言いたいことは巻物にして、紙コップに入れてくる。
時々、紙コップに学校からの手紙がぐるぐる巻になって入っている。
息子は、母に見つからないように、
抜き足差し足忍び足で部屋の中を移動する。
時々、母がわざと振り返って見る。
「うざい」という時は、すぐ部屋に行ってしまう。
任務終了だ。
「あっぶな。」という時は、まだ隠れている。
任務続行だ。
息子は「忍者」になったのだ。
ならば、母は「くノ一」になることにした。
息子への手紙を暗号で書いた。
息子の部屋のドアの隙間から、こっそり差し込む。
母はリビングで様子を伺う。
しばらくして、息子の部屋のドアが開く音がした。
下には降りてこない。
紙コップに巻物を入れて、また部屋に戻ったみたいだ。
母の暗号が解読できたのかな?
母の暗号は、簡単だった。
「たぬき」と「こけし」の絵を書いて、
「た」と「こ」を読まないというものだ。
「ただこいここすたきこ」=「だいすき」
紙コップに入っている息子からの巻物を開く。
「黒い蟻」と「茶色の蝶々」と「赤い魚」の絵が書いてある。
たぶん、蟻は当たっている。
きっと「ありがとう」と書いてあるはずだから・・・
茶色の蝶々は、蛾の絵だとして、「が」
「赤い魚」は、「とう」?
うーん・・・赤い魚・・・金魚?金目鯛?
あ!鯛だ!!
黒い「アリ」、茶色の「ガ」、赤い「タイ」だから、
「ありがたい」かあ。
「分かった?」
と、息子が嬉しそうにリビングに入ってきた。