郵便屋さんのアメ玉【創作童話】

はるちゃんは、午後2時になると、リビングの窓から離れません。

「きた!」

真っ赤な自転車に乗った郵便屋さんが見えました。

郵便屋さんのおじいさんは、自転車のベルを

「チャリン、チャリン。」

と、2回鳴らしました。

はるちゃんは急いで玄関に行き、靴を履いて、ポストまで走ります。

ポストの中に大きなアメ玉が一つ入っていました。

「やったあ!」

はるちゃんはアメ玉を取ると、ぴょんぴょん跳ねながら、家に戻りました。

郵便屋さんのアメ玉は、黒くて大きくて、はるちゃんの口の中いっぱいに甘い幸せが広がります。

 

次の日も、午後2時になると、はるちゃんはそわそわしながら、窓の外を見ています。

「きた!」

真っ赤な自転車が見えました。

「チャリン。」

今日は、ベルが一回鳴りました。

「おかあさーん、おてがみ、きたよー。」

自転車のベルが一回の時は手紙、2回の時はアメ玉。

これは、はるちゃんと郵便屋さんの秘密の合図です。

 

もうすぐ、桜が咲きそうな暖かな日でした。

はるちゃんは、今日も、窓の外をルンルンしながら見ています。

「きた!」

真っ赤な自転車が見えました。

「チャリン、チャリン、チャリン。」

初めて、ベルが3回鳴りました。

はるちゃんは、いつも通り、ポストを開けます。

中には、手紙とアメ玉が入っていました。

「おかあさーん、あめだまとてがみ、りょうほう、はいってるう。

 ゆうびんやさん、まちがえちゃったのかな。」

はるちゃんは、アメ玉を口に入れ、手紙をお母さんに渡しました。

「これは、郵便屋さんから、はるちゃんにお手紙だよ。」

「どれどれ?」

はるちゃんはお母さんから手紙をもらいましたが、まだ字が読めません。

「いままで、ありがとう。

 たのしい はいたつでした。

 って書いてあるよ。」

首を傾げるはるちゃんに、お母さんは続けて言いました。

「郵便屋さんのおじいさんは、今日でおしまいで、明日から新しい人が配達してくれるんだって。」

「なんで?」

お母さんは定年退職ということを教えてくれましたが、はるちゃんには分かりませんでした。

 

次の日、はるちゃんはいつものように窓の外を見ていました。

そこに、真っ赤なバイクがやってきました。

新しい郵便屋さんです。

はるちゃんは怖くなって、キッチンにいるお母さんにしがみつきました。

「おかあさん、もう、ゆうびんやさんのおじいさんは、こないの?」

はるちゃんは、小さな声で聞きました。

お母さんが困っていると、

「チャリン、チャリン。」

と、自転車のベルの音がしました。

はるちゃんは、急いでポストに走って行きました。

ポストのそばに、郵便屋さんのおじいさんが立っていました。

郵便屋さんは、

「こんにちは、最後のお届けものです。」

と言って、「はるちゃんへ」と書かれた大きな茶封筒を渡しました。

はるちゃんは大きな茶封筒を受け取ると、お母さんの後ろに隠れてしまいました。

「本当にお世話になりました。

 ほら、はるちゃんも、ありがとうって言おうね。」

お母さんは、はるちゃんを前に出そうとしましたが、はるちゃんは走って家の中に入って行ってしまいました。

「最後まで、本当にすみません。」

「いいんですよ。わたしも楽しかったですから。」

郵便屋さんが帰ろうとした時、ふわりふわりとシャボン玉が飛んできました。

はるちゃんがリビングの窓から、一生懸命、シャボン玉を吹いています。

郵便屋さんとお母さんの周りが、シャボン玉でいっぱいになりました。

はるちゃんの「ありがとう」の気持ちが詰まったシャボン玉です。

郵便屋さんは、空高く飛んで行くシャボン玉が消えるのを見届けてから、

はるちゃんに聞こえるように大きな声で言いました。

「ありがとう。」

 

郵便屋さんからもらった大きな茶封筒には、赤、紫、緑、黄色などの、色とりどりのアメ玉が入っていました。

 

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