今、私はコンサートホールの客席に座っている。
今日は、娘のピアノの発表会だ。
☆☆☆
私の中学校には天文部があった。
部員は、ただ1人。
同じクラスの男子だった。
ある時、その男子に聞いて見た。
「天文部、楽しい?」
何気ない質問だ。
「うん、楽しい。
星を作ってるから。」
びっくりするような答えが返ってきて、私は言葉を失った。
彼の答えが気になった。
「星を作る」……
「星を見る」の間違いじゃないだろうか。
私の聞き間違いでは、なかったか。
いや、たしかに彼は言った。
「星を作っている」と。
放課後、天文部を覗いてみた。
部活の顧問が家庭科の先生だからという理由で、天文部は調理室で活動している。
広い調理室に彼が1人で本を読んでいた。
「あのー、見学してもいい?」
彼は、「どうぞ」と言って、また本を読みはじめた。
10分たっても、彼は本を読み続けているだけだ。
「あのー、本当に星を作っているの?」
「あ、それで見学に来たんだ。知りたいの?」
「うん、できたらお願いします。」
彼は、読んでいた本を置いて、手を3回叩いた。
「以上。」
「え、それだけ?」
騙された?
馬鹿にされてる?
「拍手のパチパチという音が空に届いて、星になる。
冬は空気が澄んでいるから、音がよく届く。
だから、星がたくさん見える。」
正しい事を言っているような気もするが、信じていいのか。
疑いの眼差しで、彼をみる。
彼は、ふうっと軽く息をはいて、私の方を真っ直ぐに見る。
そして、両手を上げて、手をヒラヒラと動かしている。
「子供の時、こうして、お星様キラキラってしなかった?
この動き、手話では『拍手』という意味だよ。」
彼は真面目な顔で言った。
☆☆☆
今、私はコンサートホールの客席に座っている。
今日は、娘のピアノの発表会だ。
娘のピアノの演奏が無事終わり、思いっきり拍手する。
拍手って、誰かを褒めたり、何かに賛成したりする時にするよね。
ポジティブな動き。
ホシティブな動き。
私は、クスクス笑った。
今夜も、星が綺麗だ。