[今年の国王の誕生日は、すべての国民が緑色の服を着てお祝いするように。]
という「おふれ」が出されました。
男は、困りました。
男は、貧乏でした。
今着ている白い服も、先日譲ってもらったばかりでした。
新しい服を買うお金などありません。
男は、池の前に座りました。
男は、悲しい気持ちを歌いました。
すると、狼がやってきました。
「お前の歌を聞いたら、元気がでた。」
狼が言いました。
「これは、悲しい歌です。」
男は答えました。
「何が、そんなに悲しいのだ。」
「国王の誕生日に着る緑色の服がない。」
「じゃあ、歌のお礼に、オレが持ってきてやる。
少し待っていろ。」
狼は街に行きました。
そして、買ったばかりの緑色の服をもっている人に飛びかかりました。
緑色の服を奪った狼は、その服を男に渡し、森に帰っていきました。
男が緑色の服を持って歩いていると、
後ろから知らない人が追いかけてきました。
「その服は、さっき狼に奪われた私の服です。」
男は、すみませんと謝って、緑色の服を返しました。
男は橋の上で、悲しい気持ちを歌いました。
すると、鳩が飛んできました。
「素敵な歌ですね。」
鳩が言いました。
「これは悲しい歌です。」
男は答えました。
「どうして悲しいのですか?」
「国王の誕生日に着る緑色の服がないのです。」
「少し待っていてくださいね。」
男がしばらく待っていると、鳩が草をくわえて戻ってきました。
「この草で、あなたの白い服を緑色に染めるといいわ。」
「ありがとう。」
男は家に帰ると、早速、草を煮て、服を染めました。
けれども、服はうまく染まりませんでした。
男は、噴水の近くに腰掛け、悲しい気持ちを歌いました。
すると、老人が歩いてきました。
男が歌うのをやめると、
「素晴らしい歌声だ。」
老人は言いました。
「これは悲しい歌です。」
男は答えました。
「どうして、悲しい歌を歌っているのですか?」
「国王の誕生日に着る緑色の服がないのです。」
「では、この缶を置いておくから、歌い続けなさい。」
老人は持っていた空き缶を噴水で洗うと、
中にコインを1枚入れ、男の前に置きました。
男は言われた通り、悲しい気持ちを歌い続けました。
噴水に来た人々が男の前で立ち止まり、男の歌に耳を傾けます。
男の周りには、あっという間に人だかりができました。
男は恥ずかしくなって、歌うのをやめました。
すると、人々は拍手をして、空き缶にコインを入れて帰っていきました。
人々がいなくなったあと、男は缶の中を見ました。
コインがたくさん入っています。
男は、そのコインで緑色の服を買いました。
缶の中には、まだコインが数枚残っています。
これで、しばらくは暮らしていけると男は安心しました。
男が歩いていると、こどもが地面に絵を描いていました。
「上手だね。」
男は言いました。
「国王の誕生日に着る緑色の服がないから、
絵を描いて、お祝いしてる。」
こどもは答えました。
「ちょっと待っててね。」
男は、残ったコインで子供用の緑色の服を買い、こどもに渡しました。
「絵が本物になった!」
こどもは嬉しそうに帰っていきました。
国王の誕生日に、お城の周りには緑色の服を着た人がたくさん集まりました。