その先に 【創作童話】

5年生になって、クラス替えがあった。

仲の良い友達とは違うクラスになった。

休み時間、一人で過ごすことが多くなった。

 

「新しいクラスは、どう?」

休みの日、お父さんが聞いてくる。

「うん、まあ。」

「たっくんは、同じクラス?」

「違う。」

「ゆうくんは?」

「違うクラス。」

「なんだ、仲が良い子は、違うクラスか。」

「そうなんだよ。」

「誰が、一緒なの?」

「うーん、お父さんの知らない子。」

「言ってみて。」

「りっくんとか?」

「どんな子?」

「うーん、まだ、分かんない。」

「そっかあ。」

 

ゴールデンウイークが過ぎた。

運動会も終わった。

なんとなく、仲良くなった子が何人かできた。

「学校は、どう?」

休みの日、お父さんが聞いてくる。

「うん、まあ。」

「仲良くなった子は、いるの?」

「りっくんとか。」

「どんな子?」

「うーん、分かんない。」

「お父さん、野球が好きなんだ。

 野球の球に例えてよ。

 りっくんは、ストレート?カーブ?

 どんな球を投げてきそう?」

「うーん、チェンジアップかな。」

「へー、他には、誰がいるの?

 ストレートを投げそうな子は?」

「うーん、まーくん、いや、そうちゃんがストレートかな?」

「カーブは?」

「うーん、まだ分かんない。」

「へえ、面白いクラスじゃん。」

 

昼休みにクラスの子とドッジボールをするようになった。

当たった、当たらない。

セーフ、セーフじゃない。

そんなことで、揉めることが増えた。

去年のクラスとルールが違うんだ。

みんな言いたいことを言う。

 

「最近、どう?」

休みの日、お父さんが聞いてくる。

「うん、まあ。」

「学校で、何して遊んでいるんだ?」

「ドッジボールとか。」

「楽しそうじゃん。」

「うーん、最近、揉めてる。」

「なんで、揉めてるの?」

「みんなのルールが違うっていうか・・・。

 みんな違う意見なんだよね。」

「まあ、一人、一人違う人間だからね。」

「そんなことは、分かっているんだよ。

 みんな違うから、うまくいかない。」

「なるほどね。

 前にさ、りっくんがチェンジアップを投げそうとかって、

 話してたよね?

 そうちゃんが、ストレートだっけ?

 みんな違う球を投げてくるわけだ。

 でも、キャッチャーは、全部受け取る。

 お父さんは、どんな球がきても、受け取るっていうか

 受け入れるってことが大切だと思うんだ。」

「はあ。」

「みんな違う。

 赤い球を投げてくる人もいるかもしれないし、

 すごく重い球を投げてくる人がいるかもしれない。

 でも、とりあえず、一度、受け入れてみる。」

「うーん。」

「その上で、みんなが楽しめるルールを作ればいいんじゃない?」

「うーん。」

 

「お父さん。できなかった。」

休みの日、ぼくは怒っていた。

お父さんの言った通り、みんなを受け入れたら、失敗した。

全然、うまくいかなかった。

「どうした?」

「みんなの言うことを受け入れたら、

 なんでも有りになって、ドッジボールがめちゃくちゃになった。」

「お父さんの言い方が悪かったな。

 受け入れたら、その先を考えるんだ。」

「その先?」

「みんな違う球を投げてくる。

 その球をどう活かすかを考えるんだ。」

「お父さん、

 オレ、キャッチャーじゃなくていい。」

 

次の日から、ドッチボールに参加するのをやめた。

鉄棒したり、鬼ごっこしたりして過ごした。

 

「最近、どう?」

休みの日、お父さんが聞いてくる。

「うん、まあ。」

「ドッチボールは、どう?」

「やってない。」

お父さんが残念みたいな顔をする。

「オレは、やってないけど、うまくいってるみたいよ。」

お父さんが、続きを聞きたそうな顔をして、待っている。

仕方がないから、説明した。

「ドッチボールは3つのグループに分かれてやってる。

 みんなの意見を受け入れたら、別々にやることになったんじゃない?

 みんな一緒じゃなくていい。

 それが、お父さんの言っていた、その先だったんだよ。」

「そうか。

 ドッチボールに戻らなくてもいいのか?」

「鬼ごっこの方が楽しい。

 オレ、逃げるのうまいから。」 

 

時々、ドッチボールをやろうと誘われる。

でも、断っている。

投げるより走る方が好きだって気がついたから。

みんな違う。

お父さんの「その先」と、

オレの「その先」も違う。

 

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