忘れものを届けにきました【創作童話】

サンタクロースを知っていますか?
これは、サンタクロースを忘れてしまった人々のお話です。

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今年も、クリスマスが近づいてきました。

子供たちは、みんな心を躍らせ、クリスマスが来るのを楽しみにしています。

どの子も、おもちゃ屋さんで品定めをして、

「これ」というのが決まると、親に欲しい物リストを渡しました。

ここでは、クリスマスプレゼントは親からもらうもの、と言うのが常識でした。

 

大人たちは、子供の頃信じていたサンタクロースの事を

自分の子供には話しませんでした。

いつか本当のことを話すなら、

最初からサンタクロースの事は話す必要がない

と考えるようになりました。

だから、子供たちは、誰もサンタクロースの事は知りません。

 

「今年の12月24日は大雪になる」という天気予報があたり、

朝から降り始めた雪はやむことなく、しんしんと積もっていきます。

白銀の世界が、至る所で広がっていきました。

「今日は、クリスマスイブなのに、このままでは帰れなくなってしまう。」

「雪で電車が止まるかもしれないって。」

「今日は、全員、退社だって。」

大人たちは、早々と仕事を切り上げ、家路につきました。

 

いつもより早く帰宅した大人たちは、

家族とパーティーをしたり、ご馳走を食べたり、

ゆったりした時間を過ごしました。

大人たちは、子供の寝顔を見て微笑み、

ラッピングされたプレゼントを枕元に置きました。

 

雪は、まだ降り続いています。

寒さが部屋の中まで入ってきそうです。

「こんなに降るのは、何年ぶりだろう。

 明日は、朝から雪かきだろうから、

 今夜は早く寝たほうが良さそうだな。」

どの家の大人たちも、12時になる前に眠りにつきました。

 

翌朝、外はどこまでも続く真っ白な世界。

目を覚ました大人たちは、枕元に真っ赤な封筒があることに気がつきました。

宛名には、子供の頃のニックネームが書かれています。

中にはクリスマスカードが一枚。

金色の文字で、こう書かれていました。

『忘れものを届けにきました

         サンタクロースより』

そのカードは、以前はこどもだった全ての大人の枕元にありました。

46歳のお父さんにも、

82歳のおばあちゃんにも、

35歳のお母さんにも、

全ての大人たちに届きました。

このカードを読んだ大人たちは、しばらく動けませんでした。

 

その頃、起き出した子供たちは、プレゼントを見つけて、大喜びしています。

どの子も急いでラッピングを開けています。

でも、中身を見た子供たちは、首をかしげたり、怒ったり、泣いたりしています。

昨晩、確かに大人たちは子供たちの欲しい物を枕元に置きました。

それなのに、子供たちは口々に「これは、何?」と言います。

子供に言われて、プレゼントの中身を確認した大人たちは驚いて声が出ません。

プレゼントの中身は・・・

大人たちが子供の頃に欲しかったオモチャだったのです。

目の綺麗な人形、

音が出る機関車、

今では売っていないゲームなど……。

そして、枕元にあったのと同じカードが入っていました。

『忘れものを届けにきました

         サンタクロースより』

大人たちは、やっと思い出しました。

子供の頃、サンタクロースに手紙を書いたことや、

クリスマスイブにはサンタクロースに会いたくて、眠れなかったことや、

サンタクロースの為に準備したお菓子やジュース、

真っ赤な服と真っ白な髭の子供が大好きなサンタクロースのことを。

 

子供たちは、プレゼントが欲しい物と全然違うと訴えています。

大人たちは、子供たちを膝の上に乗せ、真っ直ぐに目を見て言いました。

「サンタクロースにお願いしよう。

 クリスマスにプレゼントをくれるのは、

 お父さんでも、お母さんでもないんだ。

 ごめん、ずっと忘れていた。」

そう言って、サンタクロースの話をしました。

トナカイのソリに乗ってやってくること、

煙突から家の中に入ること、

世界中の子供達に一晩でプレゼントを配ること、

太っちょで、笑顔が優しくて、子供が大好きなこと。

大人たちは、自分が知っているサンタクロースの事を上機嫌に話しました。

子供たちは、初めて聞くサンタクロースの話を目を輝かせて聞きました。

 

その年のクリスマス、

子供たちは、どんなオモチャよりも素敵な、

「サンタクロースがいる」というプレゼントをもらいました。

 

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サンタクロースを知っていますか?

子供たちに夢と希望を、大人たちに信じる心を届けてくれる、

クリスマスには忘れてはならない赤い服のおじいさんです。