ブラックサンタから、ママを取り戻せ!<前編>【創作童話】

私は、震える膝にギュッと力を入れた。

目の前の薄暗い家は、本当にブラックサンタの家なんだろうか?

木々に覆われて、家が半分も見えない。

風で揺れる木々たちが、「早く入れ」と急き立てている。

今、なぜ、私がこんな所にいるのかというと、

12月24日クリスマスイヴに遡る・・・

 

明日は、いよいよクリスマス!

今日は早く寝て、明日の朝には・・・うふふ。

学校からの帰り道、自然と顔はニヤケ、体はスキップしていた。

「ただいまー。」

「おかえり。寒かったでしょう?」

ママがキッチンから顔を出した。

「そんなでもない。」

私はランドセルをおいて、テレビをオンにした。

「まずは、手洗いうがい。」

急に、ママの鋭い声が飛んできた。

「あー、はいはい。」

「『はい』は、一回ね。」

うるさいなあ。

私は、黙って手洗いうがいを済ませて、お菓子を取って、

テレビの前に座った。

やっと、至福の時間だ。

お菓子を口に入れようとした、まさに、その時

「あれ?宿題は?」

と、ママの声が聞こえた。

は?なぜ、今、それを言う?

聞こえないふりをした。

「ねえ、悪い子にはブラックサンタがきて、

 プレゼントを持っていっちゃうらしいよ。」

はあ?もう、頭にきた。

私は、テレビを消して、自分の部屋のドアをバタン!と閉めた。

こんなに良い子にしているのに。

こんなにママの言うこと聞いているのに。

どうして、ママは、あんなにひどいことを言うんだ!

私は、ブラックサンタに手紙を書いた。

【ブラックサンタへ

 わたしは、悪い子です。

 わたしのママを持っていってください。】

私は、サンタさんへの手紙の下に、ブラックサンタへの手紙をそっとおいた。

 

12月25日の朝。

枕元には、もちろん、プレゼントがあった。

私は、急いでラッピングをほどいていく。

中から白くまのぬいぐるみが出てきた。

私が、サンタさんに頼んだものだ。

「やったあ」

私はぬいぐるみを抱えて、リビングに走った。

「ママー、サンタさん来たよ。」

でも、リビングにママはいなかった。

パパが一人で、コーヒーを飲んでいる。

「あれ?ママは?」

「それがいないんだよ。朝から、どこにいったんだろうね。」

私は、ぎゅうっとぬいぐるみを抱きしめた。

ママに見せたいのに・・・あ、

私は、昨日、ブラックサンタに書いた手紙のことを思い出した。

まさか!?

私は、部屋まで猛ダッシュで戻った。

手紙、手紙、どこ?手紙。

ベッドにも、机にも、床にも、どこにも、

サンタさん宛の手紙も、ブラックサンタ宛の手紙もなかった。

「どうしよう・・・」

ママがブラックサンタに連れて行かれちゃった。

私は、ぬいぐるみを強く抱きしめた。

涙がポロポロと、ぬいぐるみに落ちていく。

 

「だいじょうぶだよ」

腕の中で声がした。

え?

ぬいぐるみがしゃべった?

私は、ぬいぐるみの顔をまじまじと見る。

「12月25日のクリスマスが終わるまでは、

 サンタさんの魔法が残っていて、話せるんだ。

 本当は、魔法が残っていても、話しちゃダメなんだけど・・・

 困っているんでしょ?

 ぼくと一緒にママを取り戻しに行こうよ」

「ママを取り戻せるの?」

私は涙を拭きながら聞いた。

「きっと、だいじょうぶ。

 でも、その前に、ぼくに名前をつけてくれない?」

私は、じーっと白くまのぬいぐるみを見て、考えた。

「じゃあ、クマチ」

「ありがとう。ぼく、クマチ。よろしくね。

 時間がないから、急いでいくよ。

 ぼくを抱きしめながら、ブラックサンタの家に行くって強く思ってね。」

私は、一生懸命クマチを抱きしめて、

強く強く願った。

 

・・・そして、目を開けた私は、今、クマチと薄暗い森に立っている。

目の前にある木々に覆われている家が、たぶんブラックサンタの家。

手が震える。

足がガクガクする。

寒いからじゃない。

怖い。

そう思ったとき、風が木々を揺らした。

木々がガサガサと揺れる音に紛れて、ママの鼻歌が聞こえた気がした。

ママが料理をしている時に歌っている歌だ。

「行かなくちゃ。ママが待っている。」

一歩、一歩、震える足を動かす。

「ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ。」

音が怖くて、足が止まった。

その次の瞬間、私は黒服に黒い帽子の小人たちに囲まれていた。

「お前、悪い子か?」

「ブラックサンタは、悪い子が好き。」

「どんな悪いことをした?」

小人たちが、口々に聞いてくる。

怖くて、声が出ない。

「だいじょうぶ。ぼくがついている。」

クマチが、ニコッと笑った。

「わ、わ、私は、ブラックサンタに会いにきたの。

 悪い子だから。ママなんかいらないって言った悪い子だから・・。」

「やった!悪い子だあ。」

「イヒヒヒ、悪い子みっけ!」

「悪い子が来たぞー。」

小人たちは、口々にいうと、どこかへ行ってしまった。

ふう。

「クマチ、ありがとう。」

 

木々をかき分けると、ブラックサンタの家の玄関があった。

トントントン。

玄関をノックしたが、返事がない。

「すみません。」と声をかけたが、返事がない。

玄関のドアを押しても、引いても、びくともしない。

「悪い子しか入れないのかな?」

クマチが首をかしげた。

「そっかあ!」

私は思いっきり玄関のドアを蹴った。

今まで開かなかったのが嘘のように、ドアは簡単に開いた。

「悪い子なら、こうするでしょ?」

私は、クマチに、えへっと笑いかけた。

 

部屋の中は、ひどく散らかっていた。

おもちゃが床に出しっぱなし。

ジュースはこぼれたまま。

カーテンは破れている。

「誰だ?オモチャを盗みにきたのは?」

部屋の奥から、黒いサンタクロースの服を来た痩せたおじいさんが出てきた。

ブラックサンタだ。

「ママを・・・ママを返して!」

私は、ブラックサンタを睨んで言った。

「イーヒッヒッ、イーヒッ、ゴホゴホッ。

 ママはいらないって手紙に書いてあったぞ。ゴホゴホッ。」

「書いたわよ。でも、取り消したいの。

 ママを返して!」

「それは、むーり!

 来年のクリスマスに、サンタクロースに頼めば?

 イーヒッヒッヒ。」

ブラックサンタは楽しそうに笑った。

「来年のクリスマスまで?・・・そんなの待てない。

 今すぐ、ママを返して!」

私は怒鳴った。

ブラックサンタは嬉しそうに笑った。

「イーヒッヒッ。手洗いうがいしてないぞ。

 宿題もやってないぞ。お前は、とっても悪い子だ。」

私は、頭にきて、落ちている車のオモチャをブラックサンタに投げつけた。

「イーヒッヒッヒ、ゴホゴホッ。

 ママは返さないよ。

 だって、君、悪い子でしょ?

 来年のクリスマス、会えるといいねえ。イーヒッヒッヒ。」

「私は、悪い子よ。わかってる。

 でも、ママをとるなんて、ひどいよ。ひどいよぅ。」

涙がポロポロ流れた。

「イーヒッヒッヒ。イーヒッヒッヒ!」

ブラックサンタの笑い声がどんどん大きくなっていく。

「やだよぅ。やだよぅ。」

私は、クマチに顔をうずめて、泣いた。

ブラックサンタの笑い声が聞こえなくなるくらい大きな声で泣いた。

 

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