ゲームの耳に願望【創作童話】

「宿題、終わったの?」

「明日の準備は?」

「あと何分でゲーム終わるの?」

 

お母さんは、オレのゲームを邪魔するのが趣味みたいだ。

お母さんは、オレがゲームをしている時に限って話しかけてくる。

 

ある時から、ゲーム中にお母さんの声が聞こえなくなった。

たぶん、お母さんは何かを喋っている。

でも、オレの集中力が上回っている。

そう!オレは、神の領域に達したのだ!!

 

心置きなくゲームをしている。

もう、誰にも邪魔されない。

 

やっと、ゲームの目標をクリアした。

この達成感。

オレ、マジ、天才。

この喜びを、誰に伝えたいですか?

そうですね。

ちらっと、お母さんを見た。

料理をしながら、何か話している。

聞かなくても分かる。

どうせ、勉強しなさいとか、そんなところだ。

 

「今日も、勉強頑張って偉いね。」

あれ?お母さん、何言ってるの?

聞こえてきたのは、なぜか褒め言葉だった。

「今日も、お手伝いしてくれるの、嬉しい。」

「将来は、お母さんに宝石を買ってくれるのね。」

違う、違う。オレ、そんなこと言ってない。

「親孝行な息子がいて幸せだわ。」

「お母さんが大好きなのね。」

お母さんが、おかしくなった。

 

「お母さん、お母さん。」

慌てて、お母さんに話しかける。

「どうしたの?」

お母さんが、びっくりした顔をして、こっちを見た。

「それは、こっちのセリフだよ。

 さっきから、何言っているの?」

「ああ、どうせゲーム中は聞いてないんだから、

 文句言ってもしょうがないでしょ?

 だから、お母さんの願望を言っているのよ。」

そういうと、また願望を言いながら、料理を始めた。

「お風呂掃除してくれるの?ありがとう。」

「食器の片付けもしてくれるの?助かるわ。」

「大人になったら、旅行に連れて行ってくれるの?」

願望、多すぎ。

それから、お母さんの願望を聞きながら、ゲームをしている。

うるさいけど、文句を言われるより、気分がいい。

 

「ただいま。」

「おかえり。お母さん体調悪いから、横になってるね。」

「うん、分かった。」

オレは、ゲームを始める。

お母さんが静かだ。

ゲームに集中・・・できない。

お母さんの声が聞こえない。

ちらっと、お母さんを見る。

ちっとも動かない。

「お母さん?」

返事が聞こえない。

そうっと覗いた。

お母さんが寝ている。

ゲームに戻ろう。

なんだか、今日は調子が出ないなあ。

 

「ごめんね。お母さん、寝ちゃった。」

しばらくして、お母さんが起きた。

もう夜だ。

「ごめんね。ご飯は?」

「パン食べた。」

「食器は?」

「片付けておいた。」

「お風呂は?」

「やろうと思ったけど、まだやってない。」

オレは、ゲームをしながら答えた。

お母さんが「ありがとう。」と言った。

 

次の日、元気になったお母さんがオレに言う。

「馬の耳に念仏って知っている?」

「馬の耳に念仏を言っても意味ないよ。でしょ?」

オレは答えた。

「そうなの。でも、ゲームの耳に願望は意味があったよ。」

お母さんが笑った。

 

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