アイドルスマイル【創作童話】

娘は、写真に撮られるのを嫌がる。

家で写真を撮ろうとすると、

「とんないでー!!」と泣く。

 

こども園で、先生方が撮ってくれた写真の販売がある。

どの写真にも、娘はふて腐れた顔で写っている。

娘は、「いっぱい買って」と言う。

笑っている写真はない。

一体、どれを買えばいいのか?

 

その中から、イベントの写真を何枚か買った。

真顔か、泣き顔か、横顔か・・・

そんな写真でも、アルバムに入れると、

娘は嬉しそうにずっと写真を眺めている。

 

普段の娘を見ていたら、気がついた。

普段から、娘は、ふて腐れた顔をしていた。

いつも笑っていないのに、写真の時だけ笑うなんて、無理だったんだ。

 

夜、娘に「かわいい。」と言ってみた。

すると、「かわいくない!」と怒った。

そうか、自分のことを「かわいい」と思っていないんだ。

 

それから、娘の顔を見るたびに「かわいい」と言った。

「かわいくない!」

「もう言わないで!」

怒って返す娘に、私は毎日「かわいい」と言った。

 

ある日、「かわいい」というと、

娘が少し照れた様に笑った。

おおっ!いい反応!

それから、「かわいい」というと、

娘が嬉しそうに笑うようになった。

私は、すかさず、「笑ったら、もっとかわいい」と言った。

 

「かわいい」と言うと嬉しそうに恥ずかしそうに笑うようになった。

「プリンセスみたいに笑って。」と言ってみた。

おとなしめに微笑んだ。

うーん、もっと笑ってほしい。

「アイドルみたいに笑って。」

ニコッと笑った。

よし、これでいこう。

「これから、こども園で写真を撮るときは、

 アイドルみたいに笑ったら、かわいいよ。」

と、教えた。

 

こども園から写真販売の連絡がきた。

休日、いつもより期待をして、パソコンから娘の写真を探す。

笑っている。

これも、笑っている。

殆どの写真がカメラ目線のアイドルスマイルだった。

うん、かわいい。

娘が後ろから覗き込む。

「アイドルみたいでしょ?」

自信満々で言う。

うん、アイドルみたいで可愛い・・・けど?

なんだろう?

何かが引っかかる。

これって、本当に笑っているのかな?

この中に娘の本当の笑顔はあるのだろうか?

私が見たかったのは、この笑顔だったのか?

 

私はアルバムの中にある以前買った写真を見た。。

横顔、真顔、ふてくされた顔、泣き顔・・・。

笑っている写真なんてない。

芋掘りの写真は泣いている。

大きな芋が掘れなかったと言っていた。

クリスマスの写真は横顔だ。

サンタクロークが怖かったと言っていた。

全部笑っていない。

でも、これが本当の娘の顔だ。

 

私は娘を抱きしめた。

「笑った顔、かわいいよ。

 でも、いつもアイドルじゃなくてもいいよ。

 笑いたい時には笑って、

 笑いたくない時は笑わなくていいよ。」

娘は少し考えてから、「うん」と言った。

 

今回は、少し多めに写真を注文した。

アイドルスマイルの娘も今だけかもしれない。

「さあ、おやつにしようか?」

「やったあ!!」

娘はとびきりの笑顔で笑った。

 

1330stars.hatenablog.jp